第62話 政主との話し合い
黄龍の
可愛い甥の
儀仙堂の居龍殿の一室で
「
「
猫のように目を細めた
「今日話をしたいのは、交易についてと近頃の情勢についてです」
「そうだな。交易について、なにか懸念点があるのか?」
「いえ。今は特にありませんが、私が居なくなったら誰が交易の連絡役を担うのか、考えている最中でして」
「私ならともかく、
天下が乱れた世ならまだしも、同盟勢力の尽力により十年は大きな戦いはない。
「そのようなことはありませんよ。泉古嶺洞では数年前から謀殺が起きています。私も例外ではなく、半年ほど前に毒を盛られましたから」
さらりと自分が死にかけた話をする柳。棗はそれに構うことなく、真面目に交易の連絡役について考えていた。
「では、呪部の
「
満足げに微笑んだ柳に対し、棗は苦い顔をした。柳が人を褒めるときは頼みたいことがある時が多い。
「褒めても何も出ないぞ」
「別に、何も出してもらおうとしてませんよ」
柳が貼り付けたような微笑みを浮かべている。いつもこのような表情をしているのは重々承知の上であったが、やりづらいことに変わりは無い。思わず棗は器を手に取り、注いであった氷の入った水を飲んだ。
「そうか? お前なら、交易による取り分をもっと多く、とか言い出しそうだが」
「そうしてくれるなら、もっと言いましょうか?」
柳の言うことは何が本気で、何が冗談ではないか分からない。どの政主も腹の底の読めない人間が多くて棗は気が滅入りそうだった。ここだけの話、棗は実直な雪雲閣の政主、
「許可はしないぞ」
「じゃあ言いません」
柳がくつくつと笑う。棗をからかって楽しんでいる様子だ。
「次の話に移るが、近頃の情勢についてはどう思う?」
「はい。“厄災を招く子”に、“暁片”。そして、
「ああ。今起こっていることについて、お前はどう思う?」
「私ですか。……少し出来すぎているかと。だれかが作った道を歩いているような、そんな感覚がします。まあ、私は誰かの道に乗っかるなんて事は嫌ですが」
「柳殿らしいな」
棗はその言葉を聞いて笑った。柳は腹の底が読めない人間ではあるが、はっきりと自分の考えを言う。柳が自分の考えを言うとき、そこに嘘はないように見えるのだ。
「そういえば、雪雲閣で保護されているとされていた“厄災を招く子”が門下生として自由に動き回っていたという噂は本当ですか? 先日、
ずい、と柳は棗に身体を近づける。衣服に香を焚きしめているのか、ふわりと沈香のような香りがした。
「お前は本当に明瞭であることを好むなあ、柳殿」
「勿論です。
柳の言葉には、棗も同感だった。実際、
「ああ。では、噂が本当だと仮定すると、“厄災を招く子”を殺すほうがいい、とお前は考えるのだろう?」
柳に確信を持たれているとしても、
「はい。“厄災を招く子”は我らが同盟にも、この国にも、不利益をもたらします。殺すべきでしょう」
棗はため息を吐いた。
「……そうだな」
「それで黄龍殿、先程の質問への返答はどうなんです?」
「私は、
柳の暗い金色の瞳が棗の顔を見つめた。柳の質問の返答にはなっていないが、これでは常が”厄災を招く子”であったと言っているようなものだ。
「黄龍殿はお優しいですからね」
「それで、お前はどうする? 同盟内での意見が違うことが分かったが」
棗は氷のほとんど溶けてしまった水を飲み干し、意を決して柳の顔を見つめた。柳は組み合わせた指を解いて棗を見つめ返した。
「どうしましょうかね……殺しあいます?」
柳は先程までと同じように微笑を浮かべているが、棗は息が詰まるような思いがした。殺し合う、という言葉が冗談なのか冗談ではないのか分からない。
「それは避けたい」
「ですよね! 私もです」
棗が内心安堵したその時、儀仙堂の門下生である
「黄龍殿、柳殿。お話し中失礼いたします! 天弥道で戦が起こった、と紙鳥で連絡がありました」
その知らせを聞いて、棗はぞっとした。天弥道で起こった十年前の戦を嫌でも思い出した。戦を起こしたのは十年前と同じ者たちなのか、それとも違う者なのか。
「詳しく説明を述べよ、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます