第23話 友人として
「すみませんが、一刻ほど前に少年を見ていないですか?
会合が終わり日も傾いてくる頃、飛び出していった
「雪雲閣の少年なら、この先を走って行きましたよ。顔はよく見えませんでしたが」
「ありがとうございます。この先にあるのは…… 儀仙堂の門下生たちの住まいですか」
細い道を抜けた先に、
建物の前に立った冷は、少しのあいだ目を閉じて意を決したように目を開け、朗々たる声で中に居るであろう人間に呼びかけた。
「
返答はない。二人はいないのだろうか、もしくは二人の住まいではなかったのか。
そのように冷が不安になった頃、戸が開いて
「
「道端で蹲っていたので休ませていたのだ。顔色も悪かったからな」
冷は
「
「……もう行くのか」
「そうみたい。また来ても良い?」
その問いに対し、棗愈は珍しく笑みを浮かべた。
「もちろんだ、待っている。…… 友人として、な」
「ありがと、じゃあね二人とも」
常は、
「ああ」
常と冷は並んでその場を去り、儀仙堂の中心部に戻っていく。
棗愈と棗瑞玲は、常と冷が歩いて行くのを二人の姿が見えなくなるまでずっと見守っていた。
「――久方ぶりに他人と話して楽しい時間を過ごした、短かったが」
二人の歩いて行った方角を見ながら、棗愈は瑞玲に話しかけた。
「本当に。もっとお話をしてみたかったですね」
そう言って、棗瑞玲はちらりと兄の様子を見た。普段は口数が少なく無愛想だと評される棗愈だったが、常のおかげであろうか今日は幾分か柔らかな表情をしている。
「……また来てくれると良いが」
「きっと兄上が呼べば快く来てくださいますよ、それに大会もございますし」
「そうか? そう、だな…… 」
途端に心配そうな顔になった兄を見て、棗瑞玲はくすりと笑った。兄が人との交流のことで不安げに振る舞うことはほとんど見たことがなかったのに、今は起きてすらいないことに対して想像を膨らませて落ち込んでいる。
先程話していたときも、
本音で話すことを誰よりも望んでいるのに、同世代の子どもと本音で話すことができるとなると途端によそよそしくなる。
そんな不器用な兄が親族以外の誰かと交流を図ろうとする様が、棗瑞玲にとっては可愛らしくて仕方が無かった。
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