第83話 辿り着く人
「あれ、
「先程、明黄色の紙鳥を受け取った後、急いで出て行かれました……。建物周辺の妖鬼が全て倒されたのを確認した後、こちらはもう心配ないからとおっしゃって……」
◆
天弥道の政主は、自分が捜し回られているのを知らずに、辺り一面が白い世界の中を歩いていた。人の世とは思えないほど何も見えない場所であったが、ここがどこかと問われると天弥道である。もう少し細かく言えば、香炉から出た煙の中であった。
「
「……なぜここに君がいる?」
香炉から出た煙は人と人を分断し、見えない壁を作る。
「ええ。数日ほど前に
「あの人、余計なことを……」
だが、香炉の香と同じ香りの香袋を付けた者は、香炉の煙で作られた壁をすり抜けられるらしい。だから
「……
「謝るのは私のほうだよ。十年前、君の師匠を死なせた挙句、君の目と右手を使えなくさせてしまった。そして今回、私の復讐に天弥道を巻き込んでしまった。君は復讐などせずに、政主の地位を全うしているというのにね」
「今回、天弥道の門下生から死者は出ていません。貴方が仕掛けたのは、人を殺すほどの力はない妖鬼でした。それも、死体が動いている仕組みを知れば、容易に対処できるような。ですが、天弥道も私の力も未熟だと知らされました。……貴方は私に、天弥道に弱い部分があることを教えてくださったんですよね?」
「それは、私を善人だと思いすぎているね。弱点があれば、誰だって弱点を狙うだろう。それに私は、意味のない殺しはしたくなかった。それだけだ。……ほら、用事が終わったのなら無駄話をせずに去りなさい。私はもうすぐ死ぬのだから」
季は髪を留めている紐を手に取り、解いた。波打ったような髪が、風になびいて広がる。
「いいや、まだ用事は終わっていません。季殿、死ぬ前に私と取引をしませんか?」
憂いがある、とよく言われる微笑を浮かべて、
「取引? 私の持つもので、価値のあるものはないと思うよ」
「いいえ、ありますよ。私は、貴方が作り出した術の詳細が欲しいのです。貴方の使うまじないは禁術であるとしても、まじないの体系として完成されている。禁術である理由を取り除くことができれば、利用価値は大いにあります。今の天弥道に足りないものは、呪部ですから」
真面目で貪欲な
「政主らしくなったね、
「
季が目を見開いて、言葉を失ったように
「……君は、どこまで知っている?」
「私はほとんど何も知りませんよ。ただ、貴方にとって、取引するに値する条件だと知っているのみです。どうして貴方が
季は考えこむように、顎を触る仕草をした。
「……いいよ、取引に応じよう。
「心から感謝します、
右手が使えない中、顾は片手で精一杯の拱手をして煙の外へ去っていった。
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