第82話 人を分かつ
「それで
「僕は今から陣を描く。そのあいだ、僕に近寄ってくる妖鬼を君に討伐してほしいんだ」
「承知した。ではその前に、”お兄さん”とやらに見つからないよう霊符を貼っておくか」
その霊符の貼られた中で、
妖鬼を斬っている
「
「……僕が描き終わるまで!」
近くの妖鬼は大方討伐したはずだが、常に吸い寄せられてきたのか思ったより数が多い。人使いの荒い
「俺をこのように使うのは、お前だけだぞ!」
「そりゃあ友だからね! ……よし、あとは目を描くだけ!」
それは、今まで書いたものよりも大きな
「大会で描いていた陣か。いいのか? それは禁術だろうが」
「これは、僕がお兄さんを止めるためにできる唯一の
常は覚悟を決めた目をしている。夜の底のような暗さでいて、強さも持ち合わせている。
「そうか。……お前は、すごいな」
「すごくないよ。ただ、僕は後悔したくないだけだ。あの時のように」
「聞こえている、暁片?」
暁片の妖を呼ぶ。瞼の奥に、崩れかかった朱色の漆塗りの建物が一瞬だけ見えた。
「ああ、貴様の声はずっと聞こえているし、見えてもいるぞ」
「ねえ、暁片。僕に力を貸してくれるって前に言ったこと、覚えてる? お兄さんを止めるには、僕が陣を描くだけでは駄目なんだ」
暁片の妖がくつくつと笑い出した。声だけでも上機嫌であることが分かる。
「はは、貴様の意図が分かったぞ。
ほどなくして、巴蛇の目の部分から炎が現れた。
大きな風が巻き起こり、目を開けていられないほどだ。人の目を避ける霊符が舞い上がり、炎の中に消えて灰塵となった。
「なぜ
「師兄、僕がお兄さんを止める」
巴蛇の陣に赤い炎は天へと上り、紫色の炎を侵食していくように広がる。
「
「……この陣はお兄さんが僕に与えたものだよ。そして、僕は“厄災を招く子”だった。こうなるのって天命なのかな? でもね、お兄さんの起こしたことも、十年前の戦も、常院楼で
常は
「……仕方ない、仕方ないね。では、贄を殺して、十年前の復讐を終わらせよう」
赤い炎に完全に侵食されてしまう前に、季は陣の贄となっている人間たちへ雷を落とし、殺した。あっけないものだった。
そしてただ一人、紫色の炎を纏い
「師父! もうやめてください! これで十年前の復讐は終わったはずでしょう!」
季へと手を伸ばしながら、
「まだだよ。自分への復讐がまだだ」
痛みを感じない
そして、季の近くにのみ配置されていたらしい香炉から、人と人を分かつ煙が立ち上りはじめた。煙は、季を取り巻くように白い渦となり、誰からも見えなくなった。
◆
「あの人は、本当にどうしようもない人だ!」
「暁片、これを突破する術はない?」
「いや、これがどういう仕組みか知らぬことには、私にも無理だろうよ」
もし暁片の妖が人の貌をとっていたならば、かぶりを振っていただろう。香炉に使われている符は暁片の妖であっても見たことのないもので、解読するのに時間を要するだろう。紫色の炎が勢いを取り戻したことで、常の描いた陣も消えてしまった。
「それでも、お兄さんのところに行かなきゃ」
ふらふらと、吸い寄せられるように常が歩く。
「おい、
二人を
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