第42話 大会の後始末

 紙馬しまに乗って儀仙堂ぎせんどうへたどり着いた常子远チャン・ズーユエンは、自分と同じように紙馬に乗って運ばれてきた人々の多さに驚いた。儀仙堂の門下生、呪部じゅぶ書部しょぶは各門の傷ついた門下生たちを手当てするために忙しそうに動き回っている。


 常が紙馬から降りると、紙馬はひとりでに折りたたまれて小さくなった。秋一睿チウ・イールイに返すために、常は袖に紙馬を入れた。


 周りを見ながら黄龍の棗绍ザオ・シャオを見つけると、棗绍ザオ・シャオに向かって歩いていく。

 棗は門下生たちに指示をしている最中だったが、常子远チャン・ズーユエンが近づくと振り向いた。


「来たか、導き手の子よ」


「黄龍さん。みんなは無事?」


「幸い死者はない。妖鬼の気に当てられた者が多くいるが、元凶は白虎が斬ったためすぐに回復するだろう。傷を負った者についても、儀仙堂うちの門下生や呪部が手当てをしている」


「そうなんだ、良かった」


 棗の返答を聞き、常は息を吐いた。


「安堵した顔だな。それにしても、不可思議なことがあった。妖鬼の首の正体は山に住む妖の一種、邪魅じゃみであると考えていたのだが、であったとの報告があったのだよ。こちらからも姿は見えていたのだが、大きな妖にしか見えなかった」


 常は何度か瞬きをした後、小さく首を傾げた。


「黄龍さんでも分からないことはあるんだね」


「私を何だと思っているのだ、あるに決まっているであろう」


 棗は破顔した。政主とはいえど、彼も完璧なわけではない。呪部の卜筮ぼくぜいによる予言も万能ではないのだ。今回のように、被害が出れば後手の対応となってしまう。


「黄龍さん。…… これも、僕のせいかな?」


 常が緊張した面持ちで潤んだ瞳を微かに揺らしながら、棗に問いかけた。門下生たちが手当てを受ける姿を見ていると、怪我をしていないのに心が痛くて、常にはこの光景が自分のせいであるように思われてならないのだ。


「そうでないと証明するのはお前自身だよ。だから、玄郭げんかくの蔵書を調べ、暁片の真実を探ることをお前に命じた。それを知った先に、別の景色が見えるのではないか、と私は思うのだ」


 棗は微笑み、常の頬に流れた涙を拭き取ってやる。


「うん…… 」


 常はその言葉に頷き、棗と別れると、客人の寝泊まりする建物である静饗殿せいきょうでんに向かって、とぼとぼと歩いていく。


 その姿を見て、棗绍ザオ・シャオは一人呟いた。


「なあ、棗轩ザオ・シュエンよ。私は導き手の子に対して、少し甘すぎるか…… ?」

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