序章 厄災を招く子
第1話 伝承と現在
閉じ込められた鳥であっても、心は大空を羽ばたいている。
古くからこの地に口伝あり、”厄災を招く子”は生まれた時に殺すべし。厄災を招く子が生まれる時は、例外なく太陽が月に隠れ、空には渦のような模様ができる。
◆
どこにあるのかも分からない暗くて狭い部屋の中、ぼろ布を着た少年が膝を抱えて座っていた。髪は伸び放題で腰ほどまであり、生まれてから一度も切ったことがない。暗い色をした瞳は長い間、陽光の下の世界を見たことがなかった。
部屋の中にはほとんど物がなく、三面が土の壁であった。外とつながっているであろう一面には布がかけられていた。布の外には少年の身体が通らない間隔で木が組まれており、用を足す時でさえも少年はその外に出ることができなかった。
少年は物心ついた時から、この狭い中で生活をしてきたのだ。
食べ物の支給は最低限で、何時も餓えていた。垂れている布の端を一度食べたことがあるが、喉につまりかけて腹が痛くなっただけだったので止めた。
お世辞にも衣服とは言えないぼろ布は一枚しかなく、寒さに震える時もあった。
布の外には常時見張りが二人立っていた。布は少年の側にあるので様子を覗くこともできたが、一度見張りの姿を覗いた時、見張りの一人によって手を無理やり掴まれて叩かれたのだった。それきり少年は怯えてしまって、外を覗くことはめったにしなかった。
外では、時折何かのうめき声のような音が聞こえる。見張りがうめき声の元を見に行き、二度と戻ってこなかったこともあった。
見張りたちは意思疎通のためなのか、時折音を発していた。少年は意味を知らないまま真似をしてよく過ごした。見張りの口から流れるように発せられる音は聞いていて心地よく、思わず真似をしたくなるのだ。
そして、その音こそが人間の情報伝達手段、”言葉”であった。
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