第48話 先代白虎
楽しい話をしようと、
「
「えっと…… 」
「僕は外を見て回るだけで、すごく楽しいよ」
実際、
道端に生えている雑草も、悠々と流れる大河も、まぶしすぎる陽の光も、焼いた肉に温かい湯、瑞々しくて甘い果物も。
それだけでなく、怪しい妖鬼に、門下生たちの巧みな剣裁き、沢山煙が出る変な香炉でさえも。
「そうか」
嬉しそうに物事を思い出す常を見て、
「わ! そんな風に笑う
麻は大きく口を開けて驚いた。
「…… そんなことは無いだろう。これが普通だが」
「いやいや、君の師匠が居なくなってから、ずっと気を張り詰めていただろう。白虎としての振る舞いだとか、門下生たちの統率を、とか言ってさ。一日中厳しい顔をして、眉間に皺ができるようになってしまって」
「お前から見た私はそんな風だったのか?」
「そうだよ! 白虎になってから一緒に遊んでくれなくなったじゃないか、妖鬼退治も、怪しい集団を尾行するのも、秘境に眠る法宝探しも!」
拳を握りしめて、麻は心底悔しそうに言い、甕から直接酒を飲みはじめた。
「あのときは白虎として必死で、お前もすぐに青龍になったから忙しいかと思って…… 」
「遊んでくれないから暇すぎて妖鬼退治やら剣術の修行をしてたら、気づいた時には門下生全員に剣術で勝っちゃって青龍になってたんだよ! なりたくてなったんじゃない! 青龍って仕事も多いしさ…… 」
手足をばたつかせる麻に、秋は困惑したように再度瞬きをして目を伏せた。
「…… その言葉、青龍になりたい門下生が聞いたら怒髪天を突きそうだが」
「だろうね! 前に言ったら睨まれたよ」
大きな声で笑う麻。
それには構わずに、常がつぶやいた。
「妖鬼退治、怪しい集団の尾行、秘境に眠る法宝探し…… !」
秋と麻の二人がその言葉に顔を見合わせ、常を見ると、いつになく目を輝かせている少年の姿がそこにはあった。
「お、興味あるかい?」
「止めておけ。興味あると言ったら最後、こいつは本気で危険な場所に行くぞ」
「話だけでも聞きたい…… !」
常がそう呟いた瞬間、麻は間髪いれずに話し出した。
「じゃあまずは、私が
「他門での修行のとき?」
「お、よく知ってるね! そうだよ、私は一時期
「それは言い過ぎだろう」
大人しく酒を飲んでいた秋が口をはさんだ。
「いやいや、白虎は死を連想させる。当時の白虎は優しい人だったけど、私には怖かったよ」
「…… 師父が?」
秋が不思議そうに聞き返した。
「そう、君の大好きな師の一人、
麻は甕の中の酒を一飲みしてから、秋を指さした。
「どんな人? 怖い人なの?」
目を輝かせて常が二人に聞いた。今日の常はいつになく好奇心旺盛だ。秋が常の前で自身の師匠の話をすることは今までなかったからである。
「怖くはない」
「とても強い人だったよ、今の私と同じくらいかもね!」
麻が嬉しそうに言ったが、常は麻が戦っているのを見たことがないため、よくわからなかった。首を傾げている常には気づかずに、麻が言葉を続ける。
「通常師匠は一人だけど、
麻の説明を補完するように、秋が口を開く。
「師父が破門になったため、今の政主である
「そういえば、
麻の言葉に、秋が頷いた。
「冷師兄もその人の弟子なの? 僕、大会で師兄が妖鬼と戦うところを見たんだ。とってもすごかったよ」
常は、冷の戦う姿を思い出して言った。竹と竹を渡り、剣を使う姿は優美でありつつも、すばやく妖鬼を倒す実力も兼ね備えていた。
「そりゃ
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