第40話 剣の中の世界
「ここは…… 」
背中をさすりながら、
「来たようだな」
声変りをする前の少年のようでもあり、少女のようでもある声だ。声の主の姿は見えず、目の前には古びた神殿があるだけだ。
「いや、来たくて来たわけではないが…… 」
「剣が貴様の血を浴びたので、ここへと通じたのだろう。私は、貴様が剣の妖と呼んでいた存在……だと思ってもらって構わない。そして、ここは私の作った、あの折れた剣の内にある世界だ」
声の主が、得意げにそう言った。
「待ってくれ。私は確か
秋がそう問うと、
「そこは安心してほしい、外の世界とこの世界は時間の進み方が違う。貴様と私が
声の主はやはり得意げに答えたが、こほんと一つ咳払いをして秋に話しかけた。
「ここへ来たついでに、貴様に一つ頼みたいことがあるのだ。…… とある青銅の剣を探してほしい。剣というには短く、手に収まるほどの大きさだ。その剣は私の元の住処だったのだが、なぜか追い出されてしまってな。とっさに他の剣に憑りついて、力の温存のために数百年ほど玉剣山で眠っていた。その眠りを起こしたのが貴様だったというわけだ」
「それは…… すまない」
大会一日目で剣が暴れ回っていたのは、剣の妖が寝起きだったのが理由らしい。
「いや、良いんだ。そろそろ起きるべき時だったからな。それに……
「
「そうだ。あの子どもには何故か惹きつけられる」
秋はそれを聞いて、考え込むように顎を触った。
「成程…… 動く死体も妖鬼も寄せ付ける体質らしい」
「どうだ、私の願いは叶えてくれるか? 青銅の剣は探せそうか? 対価は、戦いのときに私が力を貸すことでどうだ? 折れた剣でも広範囲の物を斬れるぞ」
自信満々といった様子で、声には笑みが含まれている。秋はその問いかけにしばらく考えてから答えた。
「見つけられるかは分からないが、善処しよう。そのために、青銅の剣について情報が欲しい。今の情報だけだと、何も分からない。対価についてだが、妖鬼の首魁を斬った後、
秋がそう言った途端、神殿の中から楽しそうな笑い声がした。
「よかろう、あの子どもの近くにいられるのは願ってもないことだ。青銅の剣についてほかに私が覚えている情報は…… じつは、寝起きでよく思い出せないんだ。自分の名前さえも分からない。だから、次に貴様がここに来るまでに思い出しておく」
「了解した」
秋は頷いた。
「では、契約成立ということで、貴様を外の世界に返そう」
声の主がそう言うと同時に、光に包まれて、秋の視界は夜明けの太陽のように明るくなる。
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