第78話 朱色の紙鳥
「大変です! 政主様、空に大きな陣のようなものが現れています!」
偵察を行っていた
「大きな陣か……皆には、陣に近づかないように伝えなさい」
呪部を置いていない天弥道では、方術に詳しい者がほとんどいない。
その報告からそう時間の経たないうちに、空を覆い尽くすほどの大量の朱色の紙鳥が中庭に飛んでくる。それらは皆目の部分に穴が開いていた。つまり、何人もの天弥道の門下生たちが”自分たちでは敵わない相手が現れたと感じている”ことを表している。
「まずいね、悪い事態が立て続けに起こっている。かくなる上は……」
「政主様、逃げてください!」
それからすぐに、剣が使える書部の者が数名、中庭に転がるようにして逃げてきた。それを追うようにして、腐臭とともに動く死体や鬼がぞろぞろと入ってくる。
「なぜ、建物の中まで動く死体が入ってきているんだ!?」
「まずいね、妖鬼避けの陣が解けたのかもしれない」
思いがけない事態に門下生が混乱して、頭を抱える者や逃げ惑う者が出てきた。剣を手にしている書部たちも、急な実戦に不安な様子だ。
「私も戦うよ。皆が戦っているというのに、私だけが逃げるわけにはいかない」
門下生も書部も、政主が剣を持つのを今まで見たことがなかった。門下生たちにざわめきが広がる。
「政主様!?」
「……政主様も戦おうとしているのに、我らが戦わずしてどうする!」
実は
士気が上がったことにより、大方の妖鬼は門下生と書部により倒された。だが、動く死体たちはしぶといようで、腕を斬られても、足を斬られて体勢を崩しても、何食わぬ顔で襲ってくる。
「こいつら、何で倒れないんだ……!」
書部たちにも疲れが見えてきた。実戦経験が少ない者たちだけでは、あとどれだけもつか分からない。応援が来るのかさえも分からない。動く死体を倒せば、ひとまずこの苦難の波は乗り切れるというのに。
「おお……! この鮮やかな太刀筋はまさか」
天弥道の古参門下生の一人が、感嘆の息を漏らした。その奥から現れたのは、灰色の髪に雪雲閣の白い衣を着た、
「雪雲閣、
ぱっとその場が明るくなるような少し高めの
「
「はい、妖鬼除けの陣が解けかかっていたため、呪部の者たちにもう一度強固な陣を敷いてもらっています! 皆さん、動く死体を倒すためには、身体の前に貼られている霊符を斬ってください!」
「恩に着るよ、
冷が到着してから、皆が安堵して場が明るくなったことを
「感謝の言葉なら、黄龍殿におっしゃってください。ですが、まだ終わっていません。外の陣をどうにかしないと」
そう言って、冷は空に浮かんでいる紫色の炎でできた陣を見上げた。
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