第61話 雪山の仙女
政主の
冷は雪雲閣がある
冷が
「この付近ですかね…… 」
明黄色の紙鳥が冷の袖から飛び出して、翼を動かしてばさばさと音を立てた。どうやら、
だが、周りを見渡しても一面の雪景色で、何もない。唯一気になるのは、崖のようにそびえる岩山の中でも、ここだけは平坦で開けた場所のようだった。
「なにか、ここに…… 」
冷は空に向かって手を伸ばした。一見すると雪の積もった開けた場所であるが、よく見てみると、少し景色が歪んでいるようだったのだ。
すると、何もない所であるはずなのに”誰か”に手を引かれる感覚がして、引っ張られるようにして五歩ほど前に歩いた。
「うわっ」
冷の身体が前につんのめり、顔を上げるとそこには美しい銀の髪を持った、仙女のような人間が立っていた。頭には何個も簪をつけており、玉のような白に近い色の深衣を身につけている。
「
溶けかけの氷のような
「…… あなたは?」
「
「は、はあ」
「私から話を聞きたいのだろう? 入りなさい」
「この場所が気になるか? こちらは住居で、あちらは医術を施す場所としている」
医術、と聞いて思い当たる話があった。神のごとき腕を持つ医家があるが、どこにいるのかは一切不明である、と。
「前に、神医がいるとの噂を聞いたことがあります。もしかして、あなたですか?」
「それはどうか分からない。最近は、ほとんど人を診てはいないからな」
建物の中に入ると、質素である割には物が多く、飾らない雰囲気であった。
「それで、何を聞きたい?」
物が雑多に置かれた
「私や私の先祖について、何か知りませんか?」
「ほとんど知らないな。だが、
「そうなのですか?」
「お前が一、二歳の頃、この近くで泣き喚いていた。周りには、お前の両親と思われる遺体があるのみ。大方獣にでも殺されたのだろう。どこかへ移り住む途中だったのか、各地を放浪する商人だったのか、器をたくさん持っていた。それ以上の詳しい情報は分からない、だから適当な名を付けた」
そう言って
「あなたが助けてくださったのですか?」
「助けたわけじゃない。お前が着いてきただけだ。一年ほど経った頃か、私の家にずっと置いておくわけにもいかないのでな、
「
「ああ、今は違うか。
「…… 名前が違う?」
「あいつにはいろいろと事情がある。そうだ、お前は
「断れませんでした…… 」
しょぼくれた
「どんなことを頼まれた?」
「謎の香炉の出どころを探れだったり…… 雪雲閣と天弥道で更なる同盟を結べだとか…… 常院楼に“厄災を招く子”が幽閉されている可能性があるので交易を結ぶついでに探れと命じられたり…… 」
「頼まれすぎているな。あまり困らせるなと今度会った時に言っておこうか?」
「お願いします…… 」
「……ありがとうございます。今までずっと、自分の居場所について考えていました。親が分からないため、子どものころは様々なことを言われたのです。人に認められるために、誰よりも努力してきました。そんなことをしなくても認めてくれる人はいるけれど、今このように自分の目で確かめて、やっと心から自分がここにいていいのだと思えた気がします」
その言葉は、
「そんなに気にしていたのなら、
「それで、これからどうするんだ?
「私は
酒を飲み干して、
「さあな。これは老人としての助言だが、行くなら玄郭ではなく
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