第36話 人食い妖鬼現る
「妖鬼は昨日で大方刈り尽くされた。私を阻もうとする者もほとんどいないだろう、彼らのもくろみ通りに私の成績は落ちたしな」
「
昨日大会中に
「そうだな。これは大会が終わってから試そう」
「今試すつもりだったんですか!?」
冷が驚いて大きな声を出すと、秋は当然だとでも言うように不思議そうに首を傾げた。
その時だった。
いままで聞いたこともない大きさの、地響きのような衝撃が
三人の目の前にある山の一部が動いたと思えば、波打つように地面が盛り上がった。
何本もの竹が倒れて降りかかってくる。草木が地面から剥がれる音と咆哮のような音が辺りには響き渡り、人間の三倍以上もある生き物の形をとった。身体には草木が生い茂り、苔が生え、動く度に岩石が転がり落ちる。
それはまさしく、人を食う妖鬼の
先程まで澄んでいた気が漂っていた辺りには禍々しい気があふれ、黒い雲がたちまち空を隠して雷光が轟く。
ひとたび妖鬼が咆哮した。すると地面が盛り上がっていき、三人のいる方向に向かって一直線に進んでくる。
「まさか、
「師兄、私は大丈夫です! 二人は逃げてください!」
冷の声が聞こえた。いつもの
「
秋は
「師兄は行かないの!?」
「ああ、此処で食い止める」
常を追うようにして人食い妖鬼が動き出すので、秋は背負っていた妖が取り憑いた剣を取り出して、すぐに構えた。
「力を貸せ、名も無き剣よ」
その剣は折れているはずであるのに、刃は鋭く、陽光の如くきらめいている。血の気の多い妖が取り憑いているらしく、うずうずと妖鬼を斬りたがるように震える。
「行くぞ」
白虎殿、という
蔦が絡みついた妖鬼の腕が、虫を追い払うように
そして躱す勢いを利用し、円を描くように秋は折れた剣を振った。
妖鬼の腕に刃が触れる。その時、秋には剣の折れた先が出現したように見えた。それは腕を飲みこむようにして剣が大きくなったようでもあった。妖の力なのか、やけに斬ったときの感触も軽い。
妖鬼の腕に細かいひびが入ったと思えば、ぐるりと一回りするように太い線が走り、滑らかな断面で断ち切られていく。それは、柔らかな玉の加工に失敗した時に似ている。
輪切りになった腕が地面に落ちていく。その様子はやけに緩慢であり、時間が経つのが遅くなったのかとさえ思えるほどであった。
そして、腕を切られたからか、妖鬼から天を衝くような咆哮が発せられる。折れた剣も共鳴するように震え、耳をつんざくような大きな音に秋は顔を顰めた。
咆哮と同時に地面が盛り上がり、鋭い雷は地面に落ちる。木々は揺れ、動物はすでに逃げたあとで、集まってくるのは門下生たちと討伐から生き残った妖鬼たちだけだ。
門下生の中には、先程の妖鬼の咆哮に当てられて、頭を押さえている者も、倒れている者さえも居る。死屍累々になる前に、白虎である秋は門下生たちを逃がすことを優先しなければならない。
なんとしてでも目の前の妖鬼の動きを止めなければ。
「……
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