第37話 思わぬ再会
紙であるのにもかかわらず、
「どうしたんだろう」
「おーい、動いてよ」
「もしかして、何かを見ているの…… ?」
紙馬の見つめる先を
「あれ…… ?」
今、一瞬何かが光ったように見えたのだ。常は目をこすって、もう一度その場所を見てみることにした。
「誰かいるの?」
木々に向かって話しかけてみるが、返事はない。やっぱり何もないのか、と常が諦めかけたときに声がした。
「……
声が聞こえると同時に、今まで動こうともしなかった紙馬がゆっくりと動き出した。それを追うようにして歩く常。
「……誰?」
雨の届かない木陰は暗くて誰なのかよく見えなかったが、近づくにつれどんな服を着ているのかは分かった。布で顔を覆い、闇に溶けるような黒に近い濃茶色の
紙馬を撫でる手が優しい。心なしか、紙馬が懐いているようにも見える。
「君と直接話すつもりは無かったのだけれど、この子が立ち止まってしまったから仕方がない。ごめんね、先を急いでいる最中だろうに」
常はその滑らかな声に聞き覚えがあった。
「もしかして、陣を教えてくれたお兄さん?」
顔は見えなくとも、なんとなくそうだと思ったのだった。
「…… よく分かったね。変装したつもりだったけれど、意味が無かったかな」
顔を覆っている布を”彼”が手で退けると、丸く赤い瞳が常を見つめていた。
「どうだい、外の世界に出た感想は? 君の目にはどう映る?」
”彼”は
「光が眩しい、色がたくさんある、いろんな人がいる。知らないことばかりだよ」
「それは良かった。
常の着ている
常は、目の前の人物に聞きたいことがあるのを思い出した。
「うん、皆優しいんだ。…… ねえ、お兄さん」
「なんだい?」
常は、意を決して聞いた。
「お兄さんから教えてもらった陣を使ったら、邪道の禁術だって言われたんだ。そうなの?」
常の問いかけに、" 彼" は紙馬を撫でるのを止めて、常に向き直った。
「ごめんね、言わなかった私が悪かったんだ。外でも使うことになると思っていなかったから」
" 彼" の顔は布で覆われているため、表情は読めない。
木々が揺れる。外の小雨は相変わらず降っていて、常には現実が遠のいていく気がした。
「―― 前に、私には名乗るべき名はもう無いと言っただろう? それはね、私は
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