第88話 百五十年の時
四年前、本永十八年。
「起きろ、
目を開けると、見渡す限り白くて何もない空間の中に、朱色の神殿がそびえ立っていた。前に来たときは建物の大部分が崩れかけてあちこちに草木が生えていたが、今は新築のように美しい見た目になっている。豪華絢爛で巧みに作られた建物の荘厳さが伝わってくる。
「ここって、暁片の中? 僕はどうなったの?」
「貴様と
常はその言葉に頷いた。
「そして先程、貴様との賭けをした。その賭けの内容というのが、
手指を握ったり開いたりしてみても、常に違和感はない。たとえ剣の中であっても、体は自由に動かせているのだ。本当に”不完全な状態”なのだろうか? と不思議に思うほどだ。
「僕は本当に剣の中で眠っているの? ここからどうすれば出られる?」
「それが……貴様の身体は消えかかって間もない。しばらく剣の中から出られないだろう。自分では分からないと思うが、今は命が危険な状態にあると思ってくれ」
暁片の妖は珍しく真面目な声になり、そのまま話を続ける。
「……暁片は元々、災いを防ぐことを願って作られた剣だ。負の感情が蓄積されていたとはいえ、牢にいた十五年間の間、暁片は
「暁片が守ってくれていた……そうだよね。決して悪いことだけじゃなかった。――ねえ、再構築ってどれくらいの時間がかかる?」
「剣の中の時間だと、約百五十年かかる。外の時間で換算すると、三年から五年ほどだろうか。
「
それは常にとって、とてつもなく長い時間だった。牢に閉じ込められていた十五年とは比べ物にならない。
「僕はおじいさんになってしまうの?」
常の言葉に、暁片の妖が吹きだした。真面目に話をしていたのに、と常は眉をひそめた。
「安心しろ。剣の中では老人にならないようにしておいてやろう。だが、貴様の身体が外に出るときには、元の時の流れに戻す。つまり、三年から五年後の姿となる」
ほっとした顔をした常を見たのだろう、暁片の妖がくつくつと笑った。
◆
常の話が終わると、
「それで、お前は剣の中で百五十年を過ごしたのか?」
「うん、長かった。暁片の妖と修行をしたり、剣の中を探検したりしたよ。剣の中からは外の世界も見ることができて、黄龍さん……
「見られていたか」
「……それで
「儀仙堂にもっと居たい気持ちもあるけれど、まずは雪雲閣に帰るよ。師兄たちにも会いたいからね。そのあとは、旅に出ようと思う。もっと世界を知りたい。僕はいろんなものを見たいんだ」
常の返答に
「それが良いだろう。うちの
「……叔父上!?」
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