第90話 対峙
四年前、
その時、明黄色の
「あら、兄上からですね。近くに香炉を運ぶ荷車がいたとの報告です。探しますか?」
「そうだな。
用心しながら近づくと、そこには柔和な笑みを浮かべて
天弥道の風景を眺めていた
「来てくださると思っていましたよ、
「この場所は
「へえ。
二人の政主によるほのぼのとした会話が繰り広げられているため、しびれを切らした
「
「……
「もう一つ質問をしてもいいでしょうか。兄上――
「それについては謝ります。荷車を御している者が手違いで
「そうですか……。では、今このように柳殿が私たちを待っていたのは何故ですか? まさか、兄上のことを詫びるためだけではないでしょう」
「ええ。私が天弥道へ来た理由は――目的がもう達成されているから、ですかね。そうでなければ、他勢力が治めている土地にわざわざ現れません」
今まで
「目的…………君のか? それとも
可笑しくてたまらない、という風に柳の口角が吊りあがる。
「どちらもです。
柳はすぐに元の貼り付けたような微笑に戻ってしまった。
「まず一つ。あなたたちは、城歴の常院楼、そして儀仙堂の
そして玉剣山の大会で現れた妖鬼の
「聞きたいことは何個かありますが、いいでしょう。続けてください」
「私が玄郭へ行ったとき、”厄災を招く子”として閉じ込められていた
「あなたがたが私を疑っているのは分かりましたが、なぜ
「それが……
「……お前が袍に焚き染めているのは匂いからして沈香だと思うが、香炉に使われていたのも同じく沈香なのだ。先程、
その言葉で、柳が細めていた目をうっすらと開けた。
「……そこまで分かっているのなら、結論を出すのはたやすいでしょう。
「恐れながら申し上げますと、今までに起きた事は全て
柳は返答にたっぷりと時間をとった。観念したのだろうか、柳は大きく伸びをして二人に向き直った。
「全て仕組んだというのは言い過ぎですよ。想定外の出来事は何度も起こりました。あなたがたの思うように、完全なものではない」
柳の言葉には、自嘲するような響きがあった。
「……どういうことですか?」
「柳殿、本当のことを聞かせてくれないか? 君たちの行いは、同盟内で敵対しようとして起こしたことではないと思うのだ。……話し合いでの君の言葉を、私は信じたいのだよ」
腹の底の読めない政主であろうとも、本音をはっきりと話す性格の柳が殺し合いは避けたいと言ったのだ。
「そうですね。いずれにせよ刑は免れないでしょうが、一つ一つ話しましょう。そのために、私は待っていたのですから」
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