第30話 友人への返答
”何者なのか”という
「僕は
その言葉に嘘はない。だが、
「
それに、首に着けているその玉の飾りは呪いをかけられた物だろう? それだけ多くの妖鬼避けの道具を身につけていたら、近寄れば妖鬼も無事では済まない。だから普通だったなら妖鬼が寄ってくるどころか、避けるはずだ。そうであるのに、先程の鬼はお前に直接触れてまで攻撃を仕掛けた。
……鬼たちは俺たち二人を攻撃しようとしたのではなく、本当はお前だけを狙っていたんじゃないか?」
常は首に掛けてある何の変哲も無い玉を見た。薄く何か文様が彫られているが、穴の開いたただの球体にしか見えない。
「えーと…… 」
常が話の内容についていけてない顔をしているのが伝わったのか、
「つまりだな、お前には妖鬼除けの呪具よりも強く妖鬼を引き寄せる”何か”があるってことだ」
常は心臓の鼓動が速くなるのを感じた。
「”何か”って?」
「さあな。妖鬼を引き寄せる特別な力、もしくは―――― 力の強い法宝を持っている、とか」
常は息を呑んで目をとっさに瞑り、剣の痛みを予感し耐えようとしたが、その痛みが身体に走ることはなかった。恐る恐る目を開けた。常に対して向けている剣のようなまなざしを
「ねえ、急にどうしたの?」
なぜ
「俺の家系は、ある法宝に深い因縁がある。その法宝は俺の先祖が死ぬきっかけとなったものだ。お前がその法宝を持っていた場合、俺はお前を許すことが不可能になる。…… なあ常子远、俺はお前とは疑念を持たない友でありたい。ここで、はっきりとさせておきたいんだ」
首に向けられた剣先がきらりと光った。常は、”ある法宝”が自分が導くとされる法宝”暁片”ではないことを心から祈った。
そして、そう思っているのは
棗愈は一つ深呼吸をして、常に対して言葉を投げかける。
「今こそ、我が家訓の下に問う。法宝―――― 」
「
遠くから常を呼ぶ
棗愈はこの光景を見られたら厄介だと思ったのか、剣先を常に対して向けるのを止めて剣を鞘に戻した。
「大丈夫でしたか、常子远。とても濃い霧ではぐれてしまって、とても焦りましたよ」
冷はそこまで言ってから常の横に立っている棗愈の姿を見つけ、拱手を行った。
「もしかして、助けてくれたのは棗愈様ですか? ありがとうございます」
棗愈はそれに対して何も言わず、拱手をしてすぐに去って行った。
常は足早に去って行く後ろ姿を見て何か言おうと思ったが、どうにもうまく言葉が出てこない。棗愈を引き留めて弁明したり、礼を言うべきだと分かっているのに、先程の問いかけの先を聞く勇気がなかった。
棗愈と敵対してしまったら、常はやっとできた友人をまたもや一人失ってしまうことになる。いや、もう失ってしまっているのだろうか。
結局、去って行く背中を見つめることしかできなかった。引き留めるための短い言葉ですら怖くて口に出せないことがあるなんて。常は、今まで思いもしなかったことだった。
今のほうがたくさんの言葉を知っているはずであるのに、言葉をかけることすらもできない。話しかけてくれている冷の言葉も遠くなっていく。
そして常は幽閉されていたときのように、身体の奥底を冷えさせる孤独というものを思い出したのだった。
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