第72話 罠と禁術
「なんですか、この禍々しい邪気は!」
「幾重にも重なったまじないの所為だろうね。さて、入ろうか」
警戒をしながら二人が小屋に入ると、青龍の
「――
「……
「
師匠の
「まずい! 二人とも、早くその場から動いてくれ!」
銀糸により師匠の身体を固定し、
「くっ……!」
「
師匠と
「……罠にかかったようだな」
唯一体の自由がきく
「赤い目の白虎、
建物に入ってきた中の一人、
「…………何だ、これは」
まじないに詳しい季であっても見たことのほとんどない陣だった。まじないが幾重にもかけられていたため、その奥底に敷かれていた陣が先程までは見えなかったのだ。妨害するまじないもかけられているのか、青年を拘束するために銀糸を紡ごうとしても、雪のように解けて消えてしまう。
自分はまじないに詳しいから問題ないだろうと自惚れていたのかもしれない。季は、先程もっと強く
「地面に膝をつくことがないと言われた赤目の白虎が、こうも簡単に手中に落ちるとはな」
「触らないでもらえるかい?」
青年がべたべたと季の顔に触れたため、眉間に皺を寄せながら悪態を吐いた。
「青龍の
「理解に苦しむね。どうしてこんなことをする?」
季の言葉を聞いて、青年が不敵に笑った。
「各門の力のある者たちを、引きずり下ろす。帝が統治する、あるべき姿の世に戻すためだ」
そのとき、奥で叫び声がした。見ると、
「
季が叫んで銀糸を紡ごうとするが、まじないに妨害されて上手く糸を紡げない。
「俺は大丈夫です! ですが、
彼の師匠、
「さて、
青年が季の後ろに回り、右足に剣を刺した。血が溢れ、地面にぽたりぽたりと落ちる。
「次は手。その次は頭だ」
手のひらを剣が貫く。視界が揺れる。どうやら、頭を殴られたらしい。血が垂れる。
痛い。熱い。苦しい。意識のもうろうとする中、季はこの場にいるすべての人間の顔、歩き方、言葉の訛りや服装を細かく覚えていく。
「…………許さない」
何度失敗しようと、銀糸を紡ぐ。紡いでいくうちに季の血で銀色の糸が赤黒く染まっていく。まじないを唱える。失敗する。陣を展開する。失敗する。陣を展開する。
ようやく陣の展開に成功した。だが、それは禁術を元にした陣だった。以前季がまじないを調べる中で見た、失われた術に関する記述。その記憶を頼りにして作られた、まがい物の陣。
季の紡いだ陣から伸びた赤黒い糸の一本一本が、刺客たちに絡みつく。首へと蛇のように巻き付いていく。
「なんだこれは!?」
これが何なのか、季が聞きたいくらいだった。刺客たちの首に巻き付いた赤黒い糸は、建物の梁へと伸びていく。糸が、刺客たちの身体を持ち上げる。その足が地面から離れる。刺客がもがく。足をばたつかせる。
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