第60話 玄郭の思い
牢のすぐ外では玄武の
牢の中で一人座っていると、
暗い部屋も、張り巡らされた木枠も、全てが遠い昔のようだ。あのとき
「ねえ、玄武さん」
常は牢の外に立っている
「お前! 静かにしてろよ!」
「暇だもん」
「何が暇だもん、だ!
「それは言い過ぎだよ、玄武」
足音の主は玄郭の政主、
「政主様! 申し訳ありません」
謝る
「
「玄郭の政主さん。僕は玄郭の考えも理解できるから、恨めない。僕が玄郭の政主さんであっても、“厄災を招く子”を利用したいと思うだろう。でも、玄郭の人は十分に政主さんを慕っているように見えたよ。暁片を利用しなくても、みんな政主さんに着いてきてくれると思うけど」
「な、お前! 政主様に対して口の利き方がなっていないぞ! 様を付けろ!」
「…… 玄武」
「ですが、政主様!」
「落ち着きなさい、玄武。冷静にならなければ、見えるはずのものも見えなくなる。……
于が身をかがめて、常と目線を合わせて微笑んだ。
「ありがとう、玄郭の政主さん」
「このような場所に閉じ込めているのは私たちだからな。せめて、
大人しく話を聞いているかのように思われた智であったが、堪えきれなかったのか吠えるように叫んだ。
「な、なぜ政主様は、こいつの力になろうとするのですか!」
真面目な顔つきで、于は智に言い聞かせた。玄郭の園林にある澄み渡った池のように、静かで透明な声が地下に響く。
「玄武。少しの間だけだが、私たちは共に玄郭で過ごしたのだ。彼がどんな人間なのかは、実際に話をしてみれば分かるさ」
その言葉が身体に染み渡るようにして理解されると、突然常の目から涙が零れた。
「は? なんでお前泣いているんだ?」
「……僕にも分からない。玄郭の政主さんの言葉を聞くと、たまに泣いてしまうんだ。とても優しくて、僕に字を教えてくれた恩人を思い出すのかも」
于が興味深そうに顎に手を当て、常に顔を近づけた。
「字を教えてくれた恩人? 君、そういえば前も私の言葉を聞いて苦しんでいたな」
于の問いかけに、常は恥ずかしくなりながらも頷いた。
「うん。ちょうど今みたいに、僕が常院楼に閉じ込められていたとき、
「
「どういうこと?
常は牢の木枠を掴み、できる限り身を乗り出した。
「ああ。知っているも何も
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