第59話 再び
「お前も一緒に戻るか?」
「うん」
「
青々とした稲穂のような色の丸い瞳をまっすぐと
「紙鳥の報告を受けました。その少年の身柄を引き渡していただきたい」
そういうと、持っていた
「ひっ!?」
常は首先に突きつけられた刃により一歩も動くことができない。
「玄武、これはどういうことだ?」
「この少年が“厄災を招く子”だ、との知らせがありました。我が政主は、“厄災を招く子”を捕らえなさいと僕に命じたのです」
突き飛ばされた常は鍛錬の成果か、地面に倒れることなく数歩後ろに下がったのみだった。
「だが、こちらは黄龍の
秋は剣を抜こうと身構えた。
「こちらこそ困ります。ここは
すぐに駆け付けた玄郭の門下生たちに、常が拘束される。
「
「師兄、僕は拘束されようが、何されようが問題ないから。僕にはかまわず、早く儀仙堂に行って」
常が門下生たちに連れていかれる。それを、秋は追うことすらもできなかった。
◆
急ぎ儀仙堂に戻った秋は、常が心配で何も手に着かなかったが、とりあえず
「白虎殿、さきほど紙鳥を読みました。
玄郭から戻る前に、秋は
「ああ。連れて行くのを止めようとしたが、
「
常が囚われた理由として、玄郭の政のために利用されるだろうと想像できた。暁片の持つ力が未だ不明であるからには、慎重な玄郭の政主が常を雑に扱うことはないはずである。
玄郭に対する交渉は白虎の役目ではなく、政主の役目である。
「
「
「入念だな。死因は?」
「首が斬られたのが理由かと」
秋が顎に手を当てて考えこむ仕草をしてから口を開いた。
「……
冷が頷き、竹簡を取り出して秋に渡した。
「それは私が
話を聞きながら竹簡を読み進め、秋は感心して冷に声をかけた。
「感謝する、
「いえ、私は頼まれたことをしただけですから」
望んでいた以上の情報が手に入ったことや、冷と顔を合わせたことにより、常が囚われて不安だった心がいつもの落ち着きを取り戻していくのを秋は感じていた。
「さて、これからどう動くか。雪雲閣はどうなっている?」
「今のところ大事ありませんね。いざとなれば、私が戻ります」
「いざとなれば…… ? お前は儀仙堂に残るつもりか?」
冷が儀仙堂に引き抜かれてしまうのではないかという新たな不安が秋の頭をよぎったが、そうではないらしかった。
「いえ、このような状況で申し訳ないのですが、雪雲閣の北東にある
冷が自身の親について調べているのは、秋もよく知っていた。子どものころ、親がいない、というだけでからかってくる門下生もいたのだ。現在、そのような人間はすでに雪雲閣にはいないが、本人としては気がかりなのだろう。
「そうか。何かあれば紙鳥を飛ばす」
冷がとっさに秋の手首を掴んだ。
「…… 白虎殿、お気をつけて。くれぐれも危険なことはしないように」
「お前こそ、顔色が優れないようだが。いつもの心配のしすぎか?」
秋が少しだけ口角を上げた。
「私も心配したくて心配しているわけではないのです! ………… いや、本当は私が寂しいだけかもしれませんね。師父のように、急にどこかに行ってしまうのではないかと」
冷が目を潤ませた。そのとき秋は、当たり前のことに今になって気づいた。
数年前に師匠がいなくなって悲しんでいたのは、秋だけではなく冷も同じなのだ。誰かが何も告げずに急に消えると、師匠を思い出してしまう。それは秋の行動でも同じで、常院楼でも玉剣山でも冷に心配させていたのかもしれない。
冷が心配のしすぎなのではなく、自分が何も話さないから冷を心配させているのか。
それに気づいた次の瞬間には、秋は自然と言葉を発していた。
「すまない。お前には、いつも心配をかけてばかりだ。私は、
それを聞いて、冷が安堵したような顔をした。秋には、それが小さな子どものように見えた。いつも気丈に振る舞い、様々な仕事をこなしているため忘れがちだが、冷は成人してから日も浅いのだ。
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