第2話 差し伸べられた手
「君はここから出るべきなのだ、だって閉じ込められた鳥と同じなのだから」
見張りの青年はいつものように、優しい声で少年のいる牢に向かって語り掛ける。返答を期待することはもはやなく、水面に石を投げるように一方的なものであったのだが。
「……鳥?」
見張りの青年が発する言葉に対して、少年は初めて言葉を返した。
いつも見張りの言葉の真似をしていても、実際に人に向かって言葉を話すのは初めてだった。文字を一つ発するだけなのに、体が強張って息もつまりそうだった。それでも頭の中で声の高さや低さを確認する。口の形、喉を震わせる。見張りの言葉を真似るようにして、言葉を形作ったのだ。
少年が鳥と一言発しただけなのに、青年は声高になり、牢の木枠を掴んだ。
「君……! 言葉が分かるようになったのか、囚われの子よ! ああ、言葉が返ってくるのが、こんなにもうれしい事だとは!」
声だけでも青年が喜んでいるのが分かった。たかが言葉が分かったくらいでこんなに喜ぶのか、と少年は思ったが、そのような声を聞くのは悪い気はしなかった。後から少年が思えば、人のうれしそうな声を聞くのはあれが初めてだった。
青年は興奮した様子で言葉を続けた。
「君、布をどけてくれないか! 私の名は
少年が木枠に近づいて、恐る恐る布を束ねて開けると、暗がりの中に人の良さそうな青年の顔が近くにあった。
身体は少年よりも一回り以上も大きいが、少年と目線を合わせるようにしてしゃがんでいる。暗くてよく見えないが、髪を頭の高い位置でまとめており、布でできた冠を付けている。
「
少年が名を呼ぶと、
「流石だ。発音も上手にできている。耳が良いのだろうね」
このように誰かに褒められたことは初めてだった。自分に向けられた言葉は甘美で、何にも代えがたい喜びが少年を支配した。
「――――ああ、もっと話していたかったが、あいつが帰ってきたようだ。私は戻る、くれぐれも君が話せることは秘密に、な」
もう一人の見張りが戻ってくるらしく、
遠くに大股で歩くような足音が少年の耳にも聞こえる。少年が牢の前に垂れている布を戻すと、今までと同じような暗い世界が戻ってきた。名残惜しそうに、少年はしばらく布をじっと見つめていた。
さきほど起こった
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