第52話 暴君、帝寿

麻燕マー・イェンのことはともかく、私のほうで書簡を少し読み進めた。暁片が作られたとされるのは、暴君と称された王、帝寿ディ・ショウの時期だろう」


 ため息をついた後、秋一睿チウ・イールイは気を取り直し、手に持っている書簡の話を始めた。


帝寿ディ・ショウ?」


 常子远チャン・ズーユエンが首を傾げると、秋一睿チウ・イールイが頷いて立ち上がり、書棚の前を歩き始める。


帝寿ディ・ショウが治めていた時代は飢饉や災害が多く、人が多く死んだという。帝寿ディ・ショウも臣下に殺されて、結果的に国も滅んだ」


 秋の言葉に、書簡の話になってから欠伸をしながらふらふらしていた麻が大きな目を開けた。


「そいつ、暴虐の限りを尽くしたっていう王かい? 酒ばかり飲んでいると帝寿ディ・ショウみたいになるぞって門弟によく言われるんだよね!」


「僕が読んだ書簡にも、臣下によって王が殺されたって書いてあったよ。王を殺した人はどうなるの?」


 麻の発言に苦い顔をしつつ、秋は常の問いかけに答えた。


「今の時代なら、王を殺した者は死罪になる。だが、帝寿ディ・ショウの時代ならば……次の王になることもあったらしい」


「じゃあ、帝寿ディ・ショウを殺した臣下も王になったの?」


「それは、この先を読んでみないと分からない」


 秋が手に持っている書簡を見つめた。

 書棚の行き止まりで立ち止まった三人は、仕事をしている最中の書部の邪魔にならないように、先程まで書簡を読んでいた場所まで戻る。


 その戻る途中で、ちらちらと秋の様子を窺っていた常は、意を決して秋に話しかけた。


「ねえ、師兄。僕に剣を教えてくれない?」


 静かに歩いていた秋が振り返る。


常子远チャン・ズーユエン。私は師父ではなく、師兄だ。それに私は弟子をとったことがない。教えることが苦手だ。別の者に頼め」


 淡々とした口調で秋が断る。だが、常も負けじと秋の袖を掴む。


「僕は師兄に教えてもらいたいんだ」

「私は師父になるような技量を持ち合わせていない、冷懿ラン・イーに教えてもらえ」

「冷師兄は忙しいもん」

「私も忙しい」


 二人の様子を見ていた麻が腹を抱えて笑いだした。


一睿イールイ、教えてあげなよ! 教えるのが苦手な君自身の成長にもつながるかもしれないぞ」


 そこまで言ってから、急に悪そうな表情をして、声を低くする麻。


「そんなに嫌なら、私が子远ズーユエンに剣を教えて泉古嶺洞せんこれいどうの門弟になる手も――」


「私が教える」


 秋がきっぱりと言い放った。秋は麻に対しては負けず嫌いになってしまうらしい。麻が常の肩に腕を置いて、耳打ちした。


「これで一睿イールイに剣を教えてもらえるぞ」


「うん、ありがとう青龍さん!」


 

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