第1-3話:下僕と人形

 それから、半月後。

「皆で手分けして、惑星や衛星も調査したけれど、船が潜んでいる形跡はない」

 ステファンが、空中ディスプレイを指さしながら、言った。


 ディスプレイには恒星系の画像。固体惑星や巨大ガス惑星が公転している。

 惑星公転面から垂直に離れた位置には、H型をした構造体が表示されている。

 この構造体が、「駅」だ。


 駅を中心として、直径5au(約7.5億キロメートル)の範囲が、黄色く描かれている。

 駅が、行き交う船の管制と、掃海を行うのが、この管制領域となる。

 襲撃者の船・ザッカウ-1の残骸らしきものは、管制領域のすぐ外側で発見された。


「ここは一度、駅に寄って、エネルギーを補給しよう」

 ステファンが、そう提案すると、

「それは、ちょうどいいな」

 ジルが、コンソールに乗せていた足を降ろして、マリウスの方に身を乗り出す。

「ここでちょっと、隊員たちに休暇を取らせてやろうぜ。

 もう、2年以上も、船の中で暮らしているんだ」


 通常、「星の人」の艦隊では、1年に1度、拠点惑星での「艦隊休暇」を取る。

 軍務からも、船暮らしの窮屈さからも、宇宙生活の緊張からも解放された、長期休暇を取って、英気を養う。


 しかし、太陽系での「駅」建設が、5年の工期を2年に圧縮する突貫工事になったため、休暇返上での作業に追われていたのだ。

 ようやく駅が完成したと思ったら、間を置かずに探索任務である。

 これでは兵隊たちが可哀そうだ、とジルは思っていた。


「もちろん、探索が終わったら、ちゃと艦隊休暇を取るつもりでいたが・・・

 よし、では補給の間、駅での休暇を許可しよう。

 全員一度に、という訳にはいかないだろうな。シフトを組まないと」

 そう言って、マリウスはじっとタカフミを見た。


「ええと? そうなると半舷上陸するんでしょうか?」

「そういうことになるな」

「艦から駅までは、歩いて上陸できるんですか?」

「埠頭に接舷すれば可能だが、敵がいるかもしれない状態なので、接舷しない」

「じゃあ、ポッド運航の手配も必要ですよね。日帰りですか?」

「宿泊施設があるから、2泊くらい許可しよう」

「そうすると、宿泊施設の割当とかも決めないといけませんね」

「大変ですね、タカフミ」

 ちょっと嬉しそうな感じで、マルガリータが言った。


「・・・自分が立案するんでしょうか?」

「もちろん発令するのは私だ」とマリウス。

「観戦武官として、艦隊の活動を知る機会を提供しよう」

「仕事を押し付けるのに、躊躇ためらいがなくなりましたね・・・」


「ついでに、司令室と、あとマリウスの部屋も掃除してもらえないかしら?」

 マルガリータが、真顔でお願いしてきた。

「マリウスの髪を乾かす時に、気になるの。埃っぽくて」

「艦内は、掃除ロボットを巡回させているよ?」

「散らかり過ぎてて、掃除せずに通過しちゃうのよ」


 タカフミも気になっていた。

 司令室の方は、多数の空中ディスプレイが出しっぱなしで、歩くのも困難。

 個室の方は、私物とゴミがごちゃごちゃと床上にあり、服や下着が脱ぎ散らされていることもあった。雑務の相談に行く時、目のやり場に困る。


「いいですよ、ついでに掃除します」

 マルガリータは、にっこりと微笑んだ。

「ほとんど下僕ですね」

「それ、爽やかな笑顔で言うことですか?」


「髪を乾かすくらいは、自分でやらせろよ」

「まあ、本人が気にしてないから、治らないね」

「髪がどうなろうと、私の戦闘力には微塵も影響しない」

 ジルが、少し怒った顔をする。

「あのな、いい加減な洗い方に生乾きだと、におうんだよ」

「気にしない」

 マリウス、きっぱり宣言。

「気にしろよ! 周りが迷惑なんだよ!」


 マリウスが、少しいじけた様な声を出す。

「どうせ私は、不器用な人形だ」

 表情が無いので、子どものの頃から、「人形」と揶揄されていた。

「マリウスは、やれば何でも出来るでしょ。やる気がないのが問題なの」

「不器用というより、残念な人形だね」

「それだ」

「むぅ」

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