第3章:埠頭/手がかり

第3-1話:埠頭へ(前)

 「黒曜石」で昼食を取った後、タカフミは埠頭を見に行くことにした。


 埠頭は、航宙艦が停泊し、エネルギー補給や貨物の積卸、修理などを行うエリアである。

 観戦武官としては、こうした施設も見学しておきたい。

 皆を誘ってみたが、「何も面白いもんないからな~」と断られてしまった。


「『バケツ』の使い方を教えよう。あと、念のためだが、簡易宇宙服を着ていけ」

 マリウスに教わりながら、腕輪でバケツを呼ぶ。

 2分ほどでやって来た車両は、銀色だった。タイヤやサイドミラーと言った凹凸物が無いので、ますます「引き伸ばしたバケツ」に見える。

「まずは格納庫に行こう」


 鎧で降りた格納庫に戻り、簡易宇宙服を取り出す。いくつか備えてあった。

 駅建設の際に常用していた装備だ。

 見ると、マリウスも着用している。

「司令も一緒に行きますか?」

 ちょっと期待を込めて聞く。

「すぐ降りる」

 にべもない。いつものことだが。


「使い方だが」

 左に座ったマリウスが、身を乗り出して、タカフミの前にある丸いボタンに触れた。

「基本は、行先を告げるだけでいい。制御MIを呼びたい時は、これを押せ」

 空中ディスプレイが現れ、「行先は?」と表示された。

「第一埠頭へ」と告げる。


 H型構造体の長辺のうち、左上に当たる部分が「第一埠頭」、短辺を挟んで下側が「第二埠頭」、右下が「第四埠頭」と呼ばれている。


 シートベルトを装着すると、動き出した。


          **


 郊外に出ると、そこでは陽光の下、農業地帯が広がっていた。

 小麦畑が続く。時折、緑色の野菜や、白い花(ジャガイモ?)、果樹園と思しきエリアも、視界の中を通り過ぎていった。


「停めてくれ」

 マリウスが言うので、タカフミはボタンを押し、「停車」と告げる。

 ちょうど収穫の時期で、黄金色の穂が一面に広がっている。

 マリウスはバケツを降りると、重たげな穂が風に揺らぐのを、無言で眺めた。

「私は、ここで降りる。一人で帰るよ。

 危険はないはずだが・・・気をつけて」

「はい」


 20分ほど走ると、道の上に黒い、逆U字型のアーチが現れた。

 アーチを抜けた瞬間、周囲の景色が暗転して、タカフミはぎょっとする。

 バケツは、暗いトンネルの中を走行していた。


 思わず振り向くと、アーチの中には、日の光に輝く農業地帯が見えている。

 前方に茫漠と続く小麦畑は、途中から映像に切り替わっていたようだ。

 数分走ると、今度はいきなり、視界が開けた。

 星が、輝いていた。


          **


 前方にも頭上にも、更には足元にも、星々が広がっていた。

 「星空」の幅は、500メートルほど。

 急に宇宙空間に放り込まれた感じだが、呼吸が出来るので、駅の内部だ。

 外が眺められるようになっているらしい。


 上空を、一本の太い円筒が横切っている。これが「レール」だ。


 いくつもの路面が、「レール」を取り巻くように、並行して架けられている。

 バケツは、上昇して路面の一つに乗ると、その先のトンネルに入っていった。

 ここからが、第一埠頭になる。


          **


 星空の見える空間は、10キロメートル間隔で設置されていた。

 補給所のような建物が置いてある。

 タカフミは、4つ目の補給所に、立ち寄ってみることにした。


 停車したバケツから降りる。

 駐車エリアの端から、星々が見えた。一歩踏み外したら、宇宙の深淵に落ちていきそうで、ちょっと怖い。

 補給所の中には、酸素ボンベや保存食、水などが、整然と格納されていた。

 非常用なのだろう。人気も商売っ気も全くない。


 意外だったのは、人気のない建物の中に、足跡があったことだ。

 4、5人の集団が通ったように見える。

 ボンベや食料も、その一角だけは持ち去られていた。

 他の場所では、隙間なく格納されているので、ここだけ補充されていないのが目立つ。


 足跡は、補給所の外へと続いていた。足跡を追って再び外に出る。

 補給所と同じ高さにも、トンネルがいくつか口を開けていた。

 遠目にも、トンネルの床に足跡が見える。


 バケツのMIに、足跡を追うように言ったが、理解できないようだ。

 ゆっくり走行するよう指示。

 足跡は、1キロメートルほど先の、桟橋に続いていた。

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