第3-2話:埠頭へ(後)
桟橋は、幅と高さが20mほどの、四角いトンネルになっている。
航宙船は桟橋の外壁に接岸し、人や貨物の積み降ろしを行う。
壁面には、それぞれ4本の溝が走り、途中にフックのようなものがある。
貨物や人を牽引する仕組みのようだ。
桟橋の入り口には、平屋建ての建物があった。
足跡を追うように、タカフミは建物に入る。
内部は白く、がらんとしていた。「星の人」は、モニタリングや操作が必要になると、空中ディスプレイを表示させる。そのため、固定の端末を置かないのだ。
デスクや椅子は、きれいに並べられていた。ゴミや汚れもない。
利用の跡はなかったが、タカフミは、棚の中に、人形のようなものが置かれているのを見つけた。
高さは15㎝ほど。座布団もあって、その上に座っている。
精緻な刺繍が施された、サリーのような衣装を身に着けている。
長い黒髪が左右に流れている。背中にも伸ばしている。
人形の前には、一本の切り花。すっかり乾燥している。
ピンク色の小さな花が、寄り添うように集まって咲いていた。
白や灰色の光景の中で、人形と花だけが、色彩を持っていた。
タカフミは、腕輪で人形を撮影した。
**
埠頭見学を終え、街に戻った。
エスリリス乗員は、1つのホテルにまとまって宿泊している。普段は艦内で共同生活だが、ここではみんな個室だ。
隊員たちは、ソファーやテーブルに集まって、賑やかに話し込んでいる。
時おり大きな笑い声もあがった。貸し切り状態なので問題にならない。
士官の部屋は、一つ上の階。
マルガリータを見かけると、声をかけた。
「埠頭を見てきました」
「何か面白いものは、あった?」
「途中で見た星空は、見応えありました。
あとそうだ、ちょっと変わったものが。
人形がありました」
「人形?」
マルガリータが首をかしげる。タカフミは写真を見せた。
「偶像やポスターを見たことがないので、意外に思って」
「どこにあったんですか?」
「第一埠頭の端の方にある桟橋です。
入り口の建物の中にありました。
利用した人が、置いていったのかな」
マルガリータは、今度は驚いた顔をした。
「そんなところに? そんな離れた桟橋、使った人はいるかしら?」
マルガリータは、左手のパネルを操作。
駅MIと通信して利用履歴を確認した。
「2年前に調査艦隊で来た時も、その前も、街に一番近い桟橋を使いました。
あとの桟橋は、そもそも利用実績がありません」
「え、そうなんですか? 稼働してから何年もたつのに?」
「だって、こんな銀河系の辺境の、それも支線の端っこですもの」
「それって・・・」
「マリウスに知らせないと」
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