第3-3話:痕跡
勤務中の隊員6名がエスリリスから呼ばれ、桟橋を調べに行くことになった。
ポッドで埠頭に向かう。「バケツ」だと、片道70分もかかってしまうからだ。
街の中にある格納庫にポッドが到着し、マルガリータとタカフミが乗り込む。
念のため、といことで、隊員たちは歩兵銃を携行していた。
銃の形状にタカフミは違和感を感じた。弾倉がないのだ。
長さは自衛隊の小銃と同じくらいだが、腕くらいの太さがある。
「レーザー銃ですよ」とマルガリータ。
10分ほどで、桟橋に到着した。
「接岸跡があります」と隊員が報告。
桟橋の外壁に傷がいくつも付いている。両端の傷は90メートルほど離れていた。
「これは・・・確かに船が接岸してますね。
なぜ記録に残ってないのかしら」
エアロックを開けて、桟橋に入ろうとする。
ところが、反応しない。
「カメラやセンサーが壊れているのでは?」
「それなら、通信途絶で見つかるはずです」
マルガリータ、うーんと唸る。お腹がぐーっと鳴った。
「街に戻ります。駅の内部を通って、桟橋に行きます。
でもその前に、おやつにしましょう!」
**
間食を軽く取る程度と思ったら、本格的な「おやつタイム」だった。
街のカフェに移動し、お茶とケーキを選ぶ。
マルガリータがケーキを2個頼むと、他の隊員も追従した。
「銀河は広いんです」
マルガリータが真顔で訴える。
「次に来るときに食べよう、なんて言っていると、食べられなくなるんです」
移動時間も含めて、しっかり1時間、休憩。
それから隊員3人と士官2名は、バケツ2台に分乗し、第一埠頭へ向かった。
あとの3人は、再びポッドで桟橋に向かい、外部で待機する。
街を出ると、黄金色の畑が広がった。小麦の穂がゆらゆらと揺れている。
「この農業地帯は、本物ですか?」
タカフミは、隣に座ったマルガリータに聞いた。
「本物ですよ。だから駅では、美味しいパン、取れたての野菜が食べられます」
「エスリリスの食堂では、どうしているんですか?」
「栄養素材から合成するんです。
食べ物版の3Dプリンタといったところですね。
エスリリスの厨房機械はとても高性能なので、
食感や香りまで再現できます。
普通に食材から作るのと遜色ない、という人も多いです。
けれど私は、本物はもっと素敵だと思ってます。
そう感じるんです」
H型構造体の長辺に到達し、右折。
星々の見える空間を4つ通り過ぎて、件の桟橋に到着した。
**
桟橋入り口の建物に入る。ここは桟橋の管理棟だという。
タカフミは、棚に置かれた人形の前に、一同を案内した。
「この人形、顔がマリウスに似ています」
と隊員の一人が言った。
「黒くて長い髪だし、全体にほっそりしてますからね~」
と言いながら、マルガリータは人形を、間近でしげしげと見つめた。
「あら! でも、ちゃんと胸のふくらみがある」
隊員たちも、交互に顔を近づけて、じっと観察した。
「本当だ! じゃあ、マリウスじゃないですね」
「顔は似てるのに」
「別人だね」
それで別人判定される司令はなんだか可哀そうだ、とタカフミは思った。
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