第1章:探索

第1-1話:ワープアウト

 宇宙空間では、星の瞬きや、日周運動というものはない。

 彼方の星々から、何百年、あるいは何万年も旅してきた光が、静かに輝いている。


 その静寂が、ふいに破られた。

 といっても、音はない。

 空に嵌め込まれたように、不動だった星々が、俄かに動き出したのだ。

 そこにあった星々が走り去り、まるで別の方向にあった星が姿を見せる。

 空間の歪みで、光の経路が捻じ曲げられている!


 そして、その歪みの中から、航宙艦が飛び出してきた。

 「星の人」の探索艦隊が、襲撃者を追って、ワープアウトしたのだった。


          **


 「星の人」は、6年前に太陽系に来航した、異星の人々である。

 いきなり、種子島に降下してきた。

 そこに居合わせた、航宙自衛官タカフミの前に現れたのは、人間の少年少女だった(少年はのちに、女性だったと判明)。


 来航の目的は「銀河ハイウェイ」の建設。

 具体的には、ワープ航路を管制する「駅」を建設すること。

 建設の途中、太陽系に侵入した不明船団から、襲撃を受けた。

 建設を終えた「星の人」は、襲撃者を追跡して、ここまで来たのだった。


          **


「見つかりませんね」

 旗艦エスリリスのブリッジで、マルガリータがつぶやいた。

 プラチナブロンドの髪を肩まで伸ばしている。青い目に白い肌。

 にっこり笑えば天使のように見えるのだが、今は難しい顔をして考え込んでいる。

 灰色の飾り気のないシャツを着て、組んだ腕の上に大きな胸が乗っかっている。


「そりゃ、襲撃から1年以上もたっているからな」

 そう応えたジルは、190㎝近くある長身。がっしりとした立派な体躯。

 鍛え上げられた太い腕が、半袖から飛び出している。筋肉と乳房の圧力でシャツが破けそうだ。栗毛を一房だけ伸ばして、後ろに流している。


「管制領域のすぐ外に、残骸はあったけどね」

 エスリリス艦長のステファンは、緑の軍服を着ていた。彼女だけ、随分きちんとした身なりに見える。赤い髪を、ジルと同じように一房伸ばしていた。


「それで、どうするんだ、タカフミ」

 マリウスが、無表情のままタカフミを見据えて言った。

 戦闘部隊にはそぐわない、腰まで伸びる黒髪が異彩を放つ。濡烏色の艶やかな髪だが、これを維持する努力を、本人は全くしていない。

 肩や胸の輪郭は少年のように真っすぐだ。右目だけ青みを帯びている。

 表情が全くない。それは生来の特徴で、故意ではない。仲間はもう慣れているので、無表情にも特に戸惑わない。

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