第6-4話:シュリア

 タカフミは呆然として、シュリアを見つめてしまった。

 突然の感動に包まれていたのだ。

“女性らしい姿って、こんなに素敵だったのか”、という感動に。


 「星の人」は、軍服か、さもなければ「シャツに短パン」という飾り気のない姿。

 そもそも、異性を意識して着飾る、という概念自体が存在しない。

 だから、着飾ったシュリアが、すごく新鮮で魅力的に感じられた。


 視線に戸惑いながら、シュリアが聞いた。

「アユーシというのは、どなたですか?」

 タカフミ、我に返って、己の非礼を恥じる。

「すみません。じろじろ見てしまって。

 クロード家の宇宙船に乗っていた、女性士官です。なんだか雰囲気が似ていたので」

「女性で、船乗り。そうですか、いかにもクロードらしい」

 シュリアはそう呟いて、遠くを見るような目をした。


 それから急に、襟元を直したり、髪を整えたりした。

「私の服や髪、おかしくないですか?」

「いえ。とても・・・似合ってます」

 タカフミが答えても、落ち着かない様子だったが、やがて何かを決めた。

「こういう状況には慣れていないので、率直に言わせてもらいます。

 タカフミさまと会って、色々と話を聞き出してこい、と言われて、来たんです」

“初めて、男性が現れたから”という理由は、気恥ずかしくて、言葉にならなかった。


          **


 立ち話もなんですから、ということで、バーのような場所に案内された。

 マルガリータと貴族たちが食事している部屋の、すぐ近く。

「何か、飲みますか?」

「勤務中ですから、コーヒーはありますか?」

 出されたコーヒーは、甘くて良い香りがした。


「帝国の人たちは、マルガリータさまも、護衛の人たちも、みんな女性です。

 どうしてなんですか?」

「帝国には、女性しかいないんです」

「まさか! それじゃどうやって・・・

 それに、艦隊司令は男性と伺いました」

「いや、マリウスも女性ですよ」

 自分も過去に間違った。でもあの頃のマリウスは、本当に少年のように見えたのだ、と心の中で言い訳する。


「タカフミさまは男性ですよね」

「えーと」

 タカフミは頭をかいた。

「まず、タカフミさま、という言い方は、やめてください。

 タカフミ、で結構です。

 そして自分は、帝国市民ではないのです。惑星地球の、観戦武官です」


 タカフミがコーヒーに口をつけ、シャリアも倣う。


「地球にも、女性の軍人や、宇宙飛行士はいるのですか?」

「ええ、いますよ」

「そうですか・・・」


タカフミに顔を向け、少し寂しそうに笑った。

「私も、テロン宇宙軍に勤めています。

 しかしテロンでは、女性は軍務に就けません。

 なので、男として、勤務しています」


「それは、男のふりをして、ということですか?」

「はい」

 タカフミは、無言でシュリアを眺めながら、自衛隊での勤務を思い返す。

 そんなことは不可能だ、というのが、タカフミの感想だった。


 タカフミの気持ちを察したのだろう。

「幼少の頃から、男子として過ごしているので、男のふりは得意なんです。

 そのせいで、今のような恰好は、慣れてなくて。落ち着かないです」

「それにしたって・・・着替えとか、風呂とか・・・」

「部隊長や上司が、サポートしてくれるので」


「シュリアは、特別な人なんですね?」

 ここは、自分の立場を明かした方が、話しやすいと考えたのだろう。

「私は、アニクの娘です」

 そして、もう一つ、付け加えた。

「母は、クロードの、女性士官でした」

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