第6-3話:コンタクト

 1週間後、マルガリータは、惑星テロンの地上に招かれた。

 場所はドゥルガー領の首都・テロンガーナの郊外。

 森林公園の中に建つ、迎賓館だった。


 ポッドで降下する。

「テロンへようこそ、使節どの。

 本日は、正式な晩餐をご賞味頂きたい」

「光栄ですわ、執政官どの」


 翌日。

「今日は当家の宮廷料理です。

 使節どの、申し訳ないですが、太って頂きますぞ!」

「お手柔らかにお願いします」


 食べてばかりで、交渉が進まない。


 エスリリスに帰ると「今日はもう食べられない・・・」と座り込んだ。

「北半球の大陸は、複数の貴族が分割統治しているそうです。

 18諸家あって、それぞれの伝統料理を、明日から用意してくださるそうで・・・」


「略奪は、諦めてくれそうなのか?」

「それが。超電導バッテリーとか、癌治療薬とか、オーバーテクノロジーな現物が存在するせいで、女神信仰が強い力を持っているんです。

 そういうお宝を持っていることが、女神に統治を委託された証になるそうで。

 自分たちの権威に直結する話なので、なかなか『もう盗りません』って言ってくれないんです」

「むぅ」


          **


 夜、タカフミはマリウスに呼ばれた。司令室に行く。

「マルガリータの交渉に、同行してくれ」

「どういった立場で?」

「マルガリータの付き添い、でいいだろう。

 会談はマルガリータに任せて、違うルートで情報を集めてくれないか?

 このままでは、埒が明かない」


「交渉にはまだまだ時間がかかりますよ」

「なぜだ」

「コロニーで見たでしょう、これまで奪った輸送コンテナの数を。

 彼らは、何世代にも渡って、コンテナを利用していたんです。

 それが社会の前提になっています。

 何日か会話したくらいでは、世の中の動きは、変わらないですよ」


「それでは、いくら話しても、変わらないじゃないか!」

 珍しく、マリウスが声を荒げた。

「し、司令?」

「マルガリータには、食べる喜びがある。

 私には、何もない。このまま、戦わずに、朽ちていくのか」


「朽ちていく、だなんて。焦らないでください」

「焦っていない」

 マリウスは、頬をぷっと膨らませた。苛立ちを表そうとしたらしい。

 顔の他の部分が何も変わらないので、口いっぱいに頬張ったリスに見える。


「マルガリータに同行します。交渉の糸口を、探してきます」

「うん・・・頼む。頼んだぞ」


          **


 翌日。マルガリータを迎えたテロン人は、目を見張った。

 鎧装着の兵士の他に、マルガリータが連れてきたのが、男だったからだ。

 男はタカフミと名乗った。


「おい、男もいたのか?」

 アニクが、ダハムを脇に呼んで、聞く。

「男は艦隊司令とあいつだけ、らしい」

「なんてふざけた軍隊だ」


 それからアニクは、テロン宇宙軍の、若い士官を呼んだ。

「シュリア、来てくれ。話がある」


          **


 今日の会談には、北半球の大陸から、3名の貴族が、新たに参加した。

 異星からの来訪者は、「恵み」の所有者であることを、主張している。

 この来訪が、惑星テロンにどんな運命をもたらすのか、まだ分からない。

 しかし、会談の参加者に連なることが、権威の維持には絶対に必要だ――そう「嗅ぎ取った」からこそ、執政官に頼み込んで、参加してきたのである。


 彼らの歴史(お国自慢)を聞いた後、伝統料理が振舞われることになった。

 タカフミは、「自分は、ただの付き添いですので」と言って、食事は辞退した。

 貴族と食事していても、事態を変える糸口は見つからない、と思ったからだ。


 では、どうするか。

 街に繰り出して、市民の暮らしを見物するか?

 貴族の誰かと、単独で会話する機会を作るべきか?


 思案していると、急に、声をかけられた。

「あの、タカフミさま」

 振り返ると、鮮やかなサリーを身に纏った女性がいた。

 タカフミに見つめられて、恥ずかしそうに俯いた。


 タカフミは、その顔に、見覚えがあった。

「アユーシ、なのか?」

 すると女性は、首を振った。

「アユーシ? いいえ、私はシュリアと申します」

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