第6-2話:クロードの価値

 食事は、多彩なメニューがお椀に盛り付けられて、透明なカバーがかけてある。

 点心のように、好きなものを選んで食べるスタイル。

 きれいな色で、見た目も美しいデザートもある。


 重力がほぼ無いので、軽くつまめるものを用意したのだろう。


 マルガリータは、緊張の面持ちから一転、満面の笑顔になった。

「小さな胃袋を、一つしか持っていない我が身が、嘆かわしいです」

「はっはっは。二つ三つと持たれては、使節どのの美しいプロポーションが、損なわれてしまいますぞ」

 そんな軽口も交わしながら、給仕に「ではこれを」「あ、こちらも」などと言いながら、料理を見て回る。

 気づくと、マルガリータの前には、お椀や皿が10個、浮かんでいた。

「胃袋一つで、どれだけ食う気なんだ」とダハムは呆れた。


 食事をしながら、テロンの様子を聞く。

「南半球の大陸が最も大きく、歴史も古い。

 ドゥルガー家が統治されている」

「ファントゥ家も、大陸を一つ、統治されているんですね?」

「当家の大陸は、2番目に開拓されたが、面積は小さくてね」

「小さくとも、商業や文化が非常に盛んなお国だ」とアニク。


「こんなに豊かなのに、なぜ輸送コンテナを略奪するのですか?」

 食後のお茶(パック入り)を飲みながら、マルガリータは尋ねた。


「テロンの政体は、貴族20家がそれぞれの領土を統治する、貴族共和制だ。

 女神ウルカは、かつて月から神託を示し、我ら貴族に、地上の統治を委ねた」


 アニクの言葉を、リークァイが引き取って説明する。

「しかし、神託から時を経るにつれて、女神の教えを疎かにするものが、増えたのです。

 そこで女神は、貴族による統治の正当性を、はっきりと示されるために、『恵み』を届けられるようになったのです」


「つまり、今の政治体制を維持するのに、『恵み』を利用されている、ということですね」

「随分と率直な言い方をされる」


「だからといって、人の物を盗っちゃだめですよ。

 これ以上略奪したら、帝国は報復します」

「フム。帝国は、どのくらいの規模なのですか?」

「帝国の版図は、百万の恒星系にまたがっています」


「それはすごい。おそるべき勢力だ。

 しかし、クロードの民が最初に『恵み』を受け取ってから、長い間、何もなかったですな」

「私たちも、色々と忙しいんです!」

 マルガリータは、言い訳がましく述べて、頬を膨らませた。


「帝国に、色々と事情がおありなように、我々にも、様々な事情があるのです。

 我らの歴史や文化など、もう少し詳しくご説明したい。


 次は、地上に来てください。

 今日は簡単な料理でしたが、次回はフルコースを用意しましょう」


          **


「どう思う?」

 マルガリータがエスリリスに引き上げた後、アニクは同席者に聞いた。


 リークァイは笑って言った。

「商売に多少の誇張はつきものですが、百万の世界というのは、大げさですな。

 とはいえ、相手の実力が不明。

 ここは時間を稼いで、有利な条件を引き出しましょう」


 会談では控え目に振舞っていたダハムが、口を開く。

「マルガリータは穏やかですが、艦隊司令はかなり短気です。

 実力行使も辞さない、苛烈な性格のようだ。

 略奪が停止される、ということを、早いところ、納得させた方がいい」


 アニクはダハムを、じろりと見つめた。

「クロードの価値は、『恵み』の獲得、それに尽きる。

 クロード家には、感謝している。

 だが、惑星テロンに、クロードの民が舞い戻る土地は、ない。

 それをわきまえて、落としどころを探るのだ、ダハム」

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