第6章:惑星テロン/説得

第6-1話:神託の月

 マルガリータは翌日、再びコロニーを訪問し、テロンに向かうことを伝えた。


「クロード領の皆さんが生きていくためには、惑星テロンの協力が不可欠。

 輸送コンテナがなくても、クロード領と仲良くするように、説得に行きます」

「それは・・・ありがたいな」


「テロン政府と交渉したいので、呼び出してもらえますか」

「了解した。

 今は、ドゥルガー家のアニクが、執政官を務めている。彼を呼ぶよ」


「失礼ですが、執政官とは、すぐに連絡を取れますか?」

 ダハムはニヤリと笑った。

「うちは小邦だが、執政官を担う執政三家の一つなんだ」

「なんと! そうでしたか。それは頼もしい限りです」

 マルガリータ、“それは意外”という気持ちを、笑顔で隠した。


          **


 駅が、テロン恒星系へのワープゲートを展開。

 まず無人の前哨がゲートに進入し、駆逐艦キスリングが続く。

 次いでザッカウ-1、旗艦エスリリス。

 最後に砲艦タキトゥスがゲートを通過。


 惑星テロンから5au(約7.5億キロメートル)、

 テロン恒星系を俯瞰する位置にワープアウトした。


 テロン人にとっては、恒星圏に突然、未知の艦隊が出現した形だが、

 ワープアウトから2時間後には、3隻の宇宙船が惑星テロンから出航。

 探索艦隊に向けて、移動を開始した。


「地球よりは、素早い対応だな」

 マリウスは相変わらず無表情だが、声は少し弾んでいる。

「やりがいがある相手」が出てきて、密かに喜んでいた。


「それで、接触予想時刻は?」

「この調子なら、1年と8ヵ月後です」

 こちらも不愛想にエスリリスが答えた。


          **


「やる気、あるのか?」

「星間航法船は3隻しかなかった。今やザッカウ-1だけだ」

 ダハムがビデオ通話で釈明する。

「アニクさんは会ってくれるんですか?」

「急な来訪で、テロン政府も大混乱だ。ちょっと待ってくれ」

「待てん」

 マリウスが冷たく言い放つ。

「エスリリスとキスリングで、惑星テロンに向かう。

 タキトゥスはここで待機。万が一の場合は、長射程を活かして2艦を援護」


 第2惑星のテロンまで、亜光速で接近。2時間。

 静止軌道(約4万キロメートル)に到達したところで、テロン政府から申し入れがあった。

「『神託の月』で会うそうだ。そちらに向かって欲しい」


          **


 「神託の月」は、惑星テロンの衛星である。

 直径30キロメートル。火星のフォボスより若干大きい。

 地球の月の100分の1以下の大きさ。ただし地球の月は、惑星(地球)に対して、不釣り合いなほど大きいので、取り立てて「神託の月」が小さい訳ではない。


「内部が居住区になっているらしい」

 ステファンが報告。岩の塊に見えたが、実は人工の構造物が多数、表面にある。

 内部にも、広大な空間が確保されているようだ。


「ちゃんと宇宙進出してますね」

「文明崩壊しなかった国は、しっかりしているな。言葉も通じるし」

「自分を見ながら言わないでください・・・」


「それで、テロン政府側は、いつ来るんだ?」

「執政官が、自ら会いに行くって言ってるんだ。

 ロケット打上げの準備が必要だ。2週間ほど待ってくれ」

「それは大変だな。こちらから地上に行く。

 マルガリータを降ろそう。首都のど真ん中でいいか?」

「ちょっと待てちょっと待て!」


          **


 それから3日後に、テロン政府との会談が、神託の月で行われることになった。

 テロン政府側は、ロケットではなく、宇宙エレベータで上ってきた。


 マルガリータと、「鎧」装着の機動歩兵6名が、ポッドで神託の月に着陸。

 地下の居住区に案内されると、そこで3人の男が待っていた。

 並んで宙に浮き、マルガリータを迎える。宇宙服は着ていない。


「テロン共和国へようこそ」

 中央の男が言った。白人。厳めしい顔。髪には白いものが少し混じっている。

「私が、執政官のアニクだ。アニク・ドゥルガー」

 右手を出す。

 マルガリータは、宇宙服のヘルメットを開けてから、その手を取った。

「マルガリータです」

 緊張した面持ちで、少しだけ微笑む。

 アニクの左に立つ、少し太った男も、自己紹介した。

「リークァイだ。リークァイ・ファントゥ。よろしく、使節どの」

 もう一人はダハムだった。軽く会釈する。


「ダハムから、聞いていると思いますけど」

 マルガリータは、さっそく用件を切り出した。

「輸送コンテナは、我々のものです。これ以上、略奪しないでください」


 アニクは、リークァイをちらりと見た。リークァイ、頷く。

「我々にも事情があるのです。ゆっくり説明させて頂きたい」

「手短にお願いします」

「そう言わずに、こちらにどうぞ」


 隣室のドアが開けられると、美味しそうな香りが漂ってきた。

「長旅で疲れていらっしゃるのでは思いまして。まずは食事でも」

 返事をする前に、マルガリータのお腹が、ぐ~と鳴った。

「宇宙服を脱いできます」

「どうぞ」


          **


「どんな化け物かと思ったら、小娘ではないか」

 いったん退出するマルガリータの後姿を見ながら、リークァイが呟いた。

「使節に失礼ですぞ、リークァイ」

 アニクは、機動歩兵を見つめる。

「だが、護衛の兵士も女性ばかりのようだ。奇妙な人々だ。

 戦う力など、持っているのか?」

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