第5-4話:コロニー暮らし(下)

 発着ポートから、スポークのように円環に伸びる通路を通って、居住区に至る。

 降下するにつれて、重力が強くなっていく。


 アユーシに促されて、マルガリータとタカフミも、宇宙服を脱いだ。

 1Gの重力下で、宇宙服を着たまま動き回るのは、困難だ。

 一方、ブリオとハーキフは、鎧を着たまま。

 鎧には動作補助が付いているので、重力下でも普通に動ける。


 居住区の建物は、どれも6~10階建ての集合住宅だった。

 道行く人も多い。鎧を見て、皆怪訝そうな顔をする。

 駆け付けた警官が「交通整理」してくれたので、騒ぎにはならなかった。


「レストランとか、ありますか?」

「食事は共同食堂でとります。こちらです」


 メニューは、緑色のお粥、パン、様々な色と形の練り物、のようなものだった。

「野菜や果物が提供される日もありますが、今日はないです」


 マルガリータは、アユーシに断ったうえで、メニューを一つ一つ試食。

 更に、持参したケースに、少量の粥や練り物を詰めた。

「この、緑色のお粥を、育てている所も見学できますか?」

「できますけど、その、独特な、というか強烈な、臭いがしてますよ」

「構いません!」

 臨検の10倍くらいの熱意で、マルガリータはコロニーを見て回った。


          **


 夕食時になると、周囲が少し暗くなった。

 光を取り入れる鏡を動かして、照度を下げている。

 マルガリータたちは、クロード家当主の館に招待された。

 「館」といっても、周囲の集合住宅と、外観はほとんど変わらない。


 用意された部屋で、少し休憩した後、夕食に呼ばれた。

 マルガリータとタカフミが、食事に参加する。

 (ブリオとハーキフは軽食をもらい、引き続き「鎧」で付き添う)


「お待たせいたしました。お越し頂き、光栄です」

 ダハムと共に現れたのは、アユーシだった。

 服装はコロニーを案内してくれた時と同じで、パンツスタイルの活動的な姿だが、髪を束ねて、髪飾りを付けている。

「私の従妹なんだ。同席させてよろしいか?」

「そうだったんですね。喜んで」


 食堂へ案内されると、「おおっ!」とマルガリータが歓声を上げた。

 当主の館だけあって、立派な調度品がそろっている。

 木目の美しいテーブルや椅子。ガラスに包まれた照明。

 白いテーブルクロスの上には、彩色された陶器の器が並んでいる。

 エスリリス艦内では、金属の器しか使っていないので、とても色鮮やかに見える。

 食事も、ハーブで香り付けした、本物の肉が出された。


「とても美味しかったです。

 お肉や、調度品も、コロニーで生産されたのですか?」

 食後のお茶を頂きながら、マルガリータは尋ねた。

「こういった贅沢品は、テロンから輸入している。

 もっとも、贅沢品の輸入は、ごく僅かだ。

 輸入の大部分は、医薬品や、電子機器、穀物など、生活に必要な物資だ」


「輸入、ということは、対価は何で支払われているんですか?」

「そのために、『恵み』が必要なんだ」

「え?」

「超電導バッテリーのような、実用品はもちろんだが、

 それ以外の資源も、非常に価値がある。

 女神から『恵み』を受け取ることが出来る、ということ自体が、

 テロン貴族層の権威を支えているんだ」


「えーと、では、『恵み』がなかったら、どうなりますか?」

「そうなったら、テロンの連中は、我々を相手にしないだろう。

 クロードの民は、干上がるしかない」


          **


 エスリリスに戻ると、マルガリータはクロード領の状況を報告した。

「あのコロニーだけでは、生活を維持できないだろう。

 場末の海賊だって、もっと大規模なコロニー群を抱えているぞ」

 ビデオ通話で参加したジョセフィーヌが言う。

「どう生計を立てるかは、彼らの問題です」

「略奪しないと約束させても、反故にするだろう。生活が懸かっているからな」


「あの、司令」

 タカフミが手を挙げて発言。

「移民団を送り出したのは、惑星テロンなんですから、

 彼らに、責任を取ってもらいましょう。

 自分の民の面倒をしっかり見ろ、と」


「よし。ではやはり、テロンに行こう」

 マリウス、テロン行を決意。心が高揚する。

「ちっぽけなコロニーより、やりがいがある!」

「やりがいって、何を興奮してるですか!」

 マルガリータが釘を刺す。

「あくまで『説得』しに行くんですからね!」

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