第5-3話:コロニー暮らし(上)

 クロード家のコロニーは、トーラス型の構造物だった。

 トーラスは、輪環面、円環面などとも呼ばれる。早い話がドーナツ型である。

 1分強(63秒)に1回の速度で、回転している。


「なんで回転してるんですか?」

 マルガリータが真顔で質問。

 質問されたダハムは、真意を測るようにマルガリータを見つめた。

「遠心力で、疑似的な重力を発生させているのでしょう」

 タカフミが代わりに説明した。

「星の人」は人工重力を持っている。

 遠心力のような、ローテクなやり方を、思いつかなかったらしい。


 コロニー周辺には、サイコロを繋ぎ合わせたような物体が、いくつかあった。

「輸送コンテナじゃないですか! 何百個とありますよ!?」

「頂いた『恵み』の箱も、倉庫や作業場として、活用している」


「クロード領は、このコロニーだけなのか?」

 無表情のまま、マリウスが問う。

「ああ。ここだけだ。

 この恒星系には、居住可能な惑星がないんだ」


 コロニーの直径は2キロメートル。円環(ドーナツ)の幅は300メートルほど。

 居住区の広さは2㎢に満たない。

「人口は3万人ですね? それだと、東京の23区と同じくらいの人口密度です」

「この中で、食糧生産や工業生産も行うのだから、相当に過密な状況だろう」

 マリウス、無意識に右頬を撫でながら、呟く。


          **


「正直に言おう。私は、あなた方の建設母艦が欲しかった。

 コロニーを拡張したかったんだ。だから襲撃した」

「この恒星系に来る前は、どうしていたんだ?」

「我々は、惑星テロンからの移民団だった。

 当時のテロンは、人口爆発で、過酷な状況でな。

 移民団は・・・一種の棄民だった。一か八かの挑戦だった」

「テロンに戻る訳にはいかないのか?」

「どの大陸も、人で溢れている。我々が還る土地は、獲得できなかった」


          **


「コロニーの中を見せてもらっていいか?」

「構わないが、あなたが来るのか?」

 ダハム、マリウスの顔を見ながら聞く。

「いや。マルガリータを派遣する」


          **


 コロニーの中心は、発着ポートになっている。ポートは回転していない。

 ザッカウ-1が、発着ポートに接岸。

 少し遅れて、ポッドが発着ポートに着地した。


「ダハム様、ご無事で何よりです!」

 グルディープとヴィジャイ、アユーシが待っていた。

 続いて、通常宇宙服のマルガリータとタカフミが、ポッドから降りる。

 ブリオとハーキフが、「鎧」姿で後を追う。

「彼らは客人だ。失礼のないように対応しろ」

「畏まりました」


「アユーシに、コロニー内を案内させる。どこでも自由に見学してくれ。

 夕食を用意するので、その時にまたお会いしよう」

「お心遣い、感謝します」

 マルガリータ、バイザー越しに顔を見せて、微笑んだ。

 ダハムは、部下2人を連れて立ち去る。


          **


「何をご覧になりますか?」

 アユーシがマルガリータに聞いた。

「そうですね。まずは、あれ。あれは何ですか?」

 発着ポートの一角にある、黒い建物を指さした。

「あれは、聖墓です」

「お墓ですか。代々の当主の方が祭られている?」

「いいえ。あれは、御使い様のお墓です」


 アユーシは4人を聖墓に案内した。

 加圧・照明された、発着ポートの内部を移動して、黒い建物へ。


 建物に入ると、そこには女神像が、台上に安置されていた。

 きらびやかな刺繍が施された、サリーのような衣装を身に纏っている。

 微かに笑っているような、でもどこか悲しそうな表情を浮かべていた。


「この方が、女神ウルカ様です」

 アユーシが、女神像に深くお辞儀してから、告げた。

“確かに、マリウスに似ている”

 マルガリータもタカフミも、そう思った。のだが。

 サリーの胸元が、豊かに盛り上がっているのが、気になった。


「ウルカ様は、我々に『恵み』を届けてくれる、豊穣の女神なんです」

「豊穣神ですか。それじゃあ、このくらい補強しないとダメか~」

「何がですか?」

「いえいえ、こっちの話です」


 女神像の背後に、閉ざされた黒い扉があった。

「この奥が、お墓ですか?」

「はい。御使い様が眠っています。

 私たちは御使い様から、『恵み』の受け取りを許されたのです」

“その辺りは、ちょっと信じられないんですよね”

とマルガリータは思うのだが、顔には出さない。

「聖墓は閉ざされています。私たちも、入ることは出来ないんです」

「え! そうなんですか」

「そうなんです。では、次に居住区をご案内します」

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