第5-2話:宇宙ドーナツ
ダハムは、クロード家のコロニーの位置を、ステファンに伝えた。
「女神の星」恒星系では、第一惑星と第二惑星の間に、小惑星帯がある。
コロニーは、この小惑星帯の中にあった。
「今から、皆さんのコロニーに向かいます。ついてきてください」
とマルガリータはザッカウ-1に伝えた。
「ダハム様は? 無事なのか? 一度こちらに戻せ!」
とグルディープが叫ぶ。
「大丈夫だ。もう少し、会話を続ける。コロニーに来客ありと伝えてくれ」
ダハムが横から顔を出し、老人をなだめた。
「大体、40光分(光の速度で40分かかる距離)だね。亜光速航行で約2時間」
ステファンがマリウスに告げる。
「では、それまで待機・・・」
と言いかけたマリウスを、マルガリータが遮った。
「当主である方に、お茶も出さずに申し訳ありませんでした。
戦闘艦なので大したものは出せませんが、食堂でお食事でもいかがですか?」
にこやかに提案する。
「では、ありがたく頂戴する」
ダハム、素直に応じる。「帝国」の生活レベルを見ておきたいし、純粋に腹も減っていた。
**
「これは・・・随分と立派な食堂だな」
ダハム、食堂に足を踏み入れて、目を見張る。
百人が一斉に食事できる広さがある。
今は30人ほどが昼食を取っていた。皆、食べているものが違う。
固定の献立ではなく、好きな料理を選べることが、信じがたかった。
「この船は、元は強襲降下艦ですが、改装されています。
空間歪曲の検出器に、光学式や電波式の各種観測器、
通信設備、情報軍の分析装置と倉庫、最新鋭の厨房、といった装備を、
地球調査のために搭載したんです」
「最後のは、調査に必要だったんですか?」
タカフミは、思わず横から突っ込む。
「これだけの稟議を通すのは、大変でした」
マルガリータ、さらっと無視。
壁の向こうが厨房らしく、料理をオーダーするパネルがある。
内部は窺い知れないが、人の気配はしなかった。
「肉や魚料理もあるのか」
「本物ではないですけどね。栄養素材から合成してます。
でも、味も食感も、見た目や風味まで、かなりの再現度ですよ。
デザートもあります。このページです」
マルガリータ、誇らしげに胸を張る。笑顔でパネル操作を説明。
ダハムは「鶏の照り焼き」という料理をオーダーした。
ダハムを囲むように、マルガリータと、マリウス、タカフミが着席。
ジルと3人の機動歩兵は、隣のテーブルで4人を見守る。
機動歩兵が、出来上がった料理を運んでくれた。
「塩味と甘さがまじりあって、不思議なおいしさだな!」
ダハム、初めての味覚に驚く。
見回すと、マルガリータとタカフミも、それぞれの料理を食べているが、
マリウスだけは、箱から取り出した、棒のようなものをかじっている。
ダハムの視線に気づくと、箱を取り上げて見せた。
「戦闘糧食だ」
「美味いのか?」
「美味い」「まずいです」
マリウスとマルガリータの返答が交差する。
マリウスは、食べ物を美味しい/まずいと感じる部分が、不活性化されている。
そのため、食事に対する関心が薄い。
戦闘力を維持するための、補給だと考えている。
ダハムは、マリウスが糧食を口に運ぶのを、黙って見つめ、
「我々の食事も、似たようなものだ」
と言った。
「基本は、食用藻の粥と代替肉。
野菜と果物は3日に一度。年に数回の培養肉さ」
「それは何か、制約があるんですか? 例えば、その、宗教的な?」
「いや」
ダハムはかぶりを振った。
「それしか作れないからだ。土地も、水も、電力も、ぎりぎりなんだ」
**
食事を終えて、ブリッジに戻ると、ステファンが手招きした。
マリウス、艦長席に歩み寄る。
「何か気になることがあるのか?」
「空間の歪みが、全く検出されないんだ。
星間航法船を持っている文明圏なのに、妙な話だよ」
「電力不足が原因かもしれない。どうやら、随分と切迫した生活らしい」
「2つの恒星系にまたがる種族にしては、ちぐはぐだね」
「マルガリータに、調査してもらう」
**
コロニーまで、約1万キロメートルに接近。光学望遠鏡の映像が投影された。
「こ、これは・・・」
マルガリータが驚いた声を上げる。手を口に当ててディスプレイを見上げる。
警護の機動歩兵からも、「あれって地球にあったよな」といった声があがる。
マルガリータ、画像を指さして、傍らのダハムに尋ねる。
「これ・・・ドーナツですよね?」
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