第6-5話:八つ当たり?

 シュリアはずっと、疎外感を味わいながら、生きてきた。


 アニクに仕える郷士(地主貴族)の「息子」として、育った。

 物心がついた時には、一緒に暮らす両親が、実は本当の父母ではないと知った。

 幸いなことに、郷士は立派な人物で、実子と分け隔てることなく、シュリアを育ててくれた。

 学校では兄弟が、シュリアの正体がばれないよう、守ってくれた。


 成長すると、テロン宇宙軍の士官学校に進学。

 テロン宇宙軍は、実質、「ドゥルガー家の宇宙軍」である。

 (ファントゥ家の出身者も少しだけ、在籍しているが)

 他の貴族諸家には、宇宙軍を維持するほどの、財政的な余裕がないためだ。


 宇宙軍は、陸海空の三軍とは異なり、貴族や郷士だけで構成されている。

 「恵み」をクロード家から受け取るという、貴族層にとって重要な役目を担う。


 特権階級の子弟たちは、シュリアのことを「訳アリ」であると察していた。

 実父の名が明かされることはなかったので、媚び諂うような輩はいなかったが、「関わると、面倒事になりそうな奴」と目され、距離を置かれることが多かった。


 なので、変に警戒することなく、普通に接してくれるタカフミと会話するのは、楽しかった。


          **


 会談には、異星からの来訪者に会って、箔を付けたい貴族が、押し掛けていた。

 マルガリータは青い制服――体に密着するデザインのフライトスーツ――を着用していたが、貴族の一人が、自領の伝統衣装を贈呈すると、さっそく着替えた。

 それを見た参列者が、「ならば、うちの衣装も!」と差し出し、毎回、違う装いで現れるようになった。

 天使のような笑顔と、巧みな話術、豊富な(汎銀河規模の)知識、豪快な食べっぷりで、すっかり貴族たちの人気者になった(交渉は、さっぱり進まないが)。


 そんな、煌びやかな様子を見ていると、

“女性として振舞うのも、なんだか楽しいそうだなぁ”

 と思えてきた、シュリアだった。


          **


「タカフミ、今日はちょっと、お酒も飲みませんか?」

 少し高揚した気分で、そう持ち掛ける。

 仕事中ですから、と辞退するタカフミに、

「マルガリータを見習って、我が国の文化を味わうべきじゃないですか!?」

 と言って、強引に酒を用意した。

 それで押し切られ、飲んでしまったタカフミは、意志薄弱と言われても、弁解の余地がない。


          **


 タカフミは、マリウスに呼ばれ、司令室に入る。

 マリウスは、空中ディスプレイの一つを眺めていた。

「最近、シュリアと、酒を飲んでいるな」


 地上で見聞きしたことは、報告をあげているが、飲酒のことは書いていない。

「腕輪は生体情報も集めている。血中アルコール濃度も分かる」

 タカフミは、左手の腕輪を見た。

 こいつ、どこまで情報を集めているんだ!?


「別に責めている訳ではない。

 交渉事だし、酒が入ることもあるだろう。だが」

 タカフミを見つめる。

「私のことが、銀河より気になるんじゃなかったのか?」


 例によって、マリウスの表情は変わらない。

 ゆえに、どんな気持ちでそれを持ち出したのか、皆目分からない。


 タカフミが戸惑っていると、

 マリウスは「ふぅー」と、息を吐きだすだけの吐息をついた。

 そのまま、話題を変える。


「交渉が進んでいないのは、なぜだと思う?」

「略奪を続けても、帝国は何もしない、と思われています」

「うん・・・そうなんだろうな」


 マリウス、右頬を撫でる。

「やっぱり、武力行使しないと、本気だと伝わらないんじゃないか?」

「武力って。例えば何をやるんですか?」

「そうだな。大陸が4つあるから、1つを焼くとか」

「殲滅が目的ではないって、軍団長に言われましたよね!?」

「殲滅じゃないぞ! 総人口の4割くらいが死ぬだけだ」

「後戻りできなくなりますって!」


「宇宙空間で主砲を撃つ、くらいに留めないと。

 それでも、砲艦外交みたいで、お勧めしたくないですが」

「宇宙でいくらレーザーを撃っても、線香花火よりもインパクトがない」


 薄い胸の前で、腕を組む。

「何か、彼らの度肝を抜くような方法を考えてくれ。

 だが、いつまでも待つわけには、いかない。

 タキトゥスは、砲撃配置につけておく」

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