第2-7話:地球での出来事

「さて。で、これは何だ?」

 ジョセフィーヌは、危険物を見るような厳しい目つきでタカフミを見た。


「地球から来た、観戦武官です」

 マリウスが紹介する。


「駅の建設現場に、遺棄植民地があったとは聞いたよ。

 文明が崩壊していたんだって?」

「詳しい経緯は不明ですが、植民の歴史も、標準語も喪失して、内戦状態です」


 マリウスが手を振って、挨拶するように促した。

「タカフミと申します。日本の航宙自衛隊から来ました」

 タカフミ、直立不動で述べた後、腰を折って頭を下げた。


 ジョセフィーヌは、なおも無言で、青藍の視線を注いでいたが、

 一応、信頼できると判断した。右手を差し出す。

「ジョセフィーヌだ。キスリング艦長を拝命している。よろしく」


 2人は握手した。血管が透けて見えるほどに白い肌。だが外見とは裏腹に、握る力は強い。微笑の中に、探るような鋭さをタカフミは感じた。


 一通り、挨拶をすますと、ジョセフィーヌはマルガリータを手招きした。

「マルガリータ、ちょっと話をしよう。あ、そうだ、誰か水割りを作ってくれ」

「バーテンダーがいます」

「あー」


          **


「何なんだ、あいつは?」

 ジョセフィーヌは、改めてマルガリータに聞く。

「地球駅の建設で、協力してもらったんです」

 マルガリータは、トンネル掘削の件を説明した。


 「星の人」が訪れた時、地球は期待と不安に包まれた。

 だが、彼女たちから見た地球は、「内戦状態」、「交渉相手の統一政府もない」、「脅威になるほどの技術も持っていない」。

 結局マリウスは、地球に「放置宣言」を下し、駅の建設に取り掛かったのだが・・・


 地球駅の建設工期は、当初、5年。

 そこに、上層部から急な命令が届き、なんと2年で稼働させることになった。


 駅構造体を一から作っていては、とうてい間に合わない。

 大きめの小惑星(アウロラ)を持ってきて、代用することにした。

 だが、「レール」を設置する長いトンネル(全長100キロメートル)を、高精度で掘削する方法を、「星の人」は持っていなかった。


 こうして。「放置」から一転、トンネル掘削で「星の人」を手伝うことに。

 この「お手伝い」の中心人物が、タカフミである。

 これが縁で、観戦武官として、探索艦隊に随行することになったのだ。


          **


「地球人をいじめるつもりは毛頭ないのに、勝手に疑って、建設を邪魔する人たちがいたんです」

 マルガリータは、酒の中に浮かぶプリンを、スプーンで突きながら文句を言う。


「それで、世論対策で、船上の対話、というのを計画したのですが」

 マルガリータは、何か悲しいことを思い出したのか、涙目になった。


「私、『フルコース』というのを食べたことが無くて、夕食に組み込んだのに。

 旬の食材で季節を愛でる豪華な和朝食とか、

 豪快なステーキ肉が挟まって『これどうやって食べるんだA国人!?』てな感じのハンバーガーとか、色々用意したのに。


 心無いテロリストのせいで、みんなお流れになってしまったんです(涙)」

 マルガリータの涙腺が決壊。落涙して、悲しんでいる。


 対話、と言いながら、食べ物の話しか出てこない。

 それをジョセフィーヌは、ちょっと困ったような微妙な笑顔で見守っていたが、

「ところで、船や食事の手配は、どうやったんだ?」

 と質問した。


「レアメタルを売ったり、独占放映権と引き換えに協力してもらったりしました」

「苦労したんだな。でもそれじゃ、地球上で大して活動できなかっただろう?」

「ええ。やっぱり現地通貨が限られてると、あまり自由が利かなくて」


 ジョセフィーヌは、水割りを一口飲んだ。

 そしてマルガリータに顔を寄せる。

「お前は、情報軍の仕事の進め方を、分かっていないな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る