第2-6話:ゆさゆさ。大きさは。。。

 「黒曜石」は、少し暗めの照明の中に、重厚感のある家具が並ぶ、落ち着いた雰囲気の店だった。


 ウォールナットのような、濃い褐色、美しい木目の素材で作られたカウンター。

 女性のバーテンダーが「いらっしゃいませ」と言った。


 彼女の額には、1辺2㎝ほどの逆三角形が、青く光っている。

 笑顔で挨拶してきたが、体の動きに違和感がある。揺らぎ、がない。


 タカフミは、小声でマリウスに尋ねる。

「もしかして、ロボットですか?」

「よく分かったな。まあ、この駅では、来客がほとんどいないだろうから」


 ジルが2人を見て言う。

「俺はビールにする」

「ビールがあるのか?」

「似たようなのがある」

「じゃあ、自分もそれで」


 奥の厨房機械から、グラスで出てくる。バーテンダーに手渡された。

 キンキンに冷えて旨い。苦味は控えめで飲みやすい。


 入口のチャイムが鳴り、マルガリータが入って来た。

「ジョセフィーヌ先輩に会いましたよ。

 黒曜石に来てくださいって伝えました」


 バーテンダーに空中ディスプレイを渡されると、右上と左下の角を持って引っ張り、四つ折りの新聞紙ほどに広げる。

 画面をスワイプしながら、じっくり選ぶ。


「私はこれにしまーす!」

 マルガリータが画面に触れると、ピンポン玉くらいのふわっとした玉が、ディスプレイの背面から飛び出し、バーテンダーの額の三角に入った。

 オーダー受領を示す、視覚的なガジェットだ。


 マルガリータ、調子に乗って、画面に何度も触れる。

 ピンポン玉が続けて飛び出して、バーテンダーに吸い込まれていく。

 バーテンダーは、にっこり微笑んだ。

「メロンサワーのプリンと生クリーム乗せ、お一つ、承りました」

 マルガリータも、にっこり笑う。

「10人前とか言わずに、ちゃんと一つだけ出してくれるなんて。

 気の利くいい子ですね。偉い偉い」と満足げだ。


 バーテンダーは、マリウスにもメニューを差し出したが、マリウスは受け取らず。

「水と塩。水はそのグラスで。塩は1g」

 バーテンダーは、戸惑った表情をしたが、マリウスが全く無表情なのを見て、冗談ではないと判断した。


          **


 入り口のチャイムが鳴り、ステファンを連れたジョセフィーヌが入って来た。


「先輩!」

 と言って、マルガリータが抱きついた。

 ジョセフィーヌも、笑顔で抱擁。

 それから、右手でマルガリータの胸を持ち上げた。ゆさゆさと上げ下げする。


「・・・あの、ジョセフィーヌ、何を?」

「1キロには少し届かないな。900グラムくらいか。

 (※FとGの間くらい)」

「目方で量らないでください!」

「赤ん坊の君を見た時から、私には分かってた。きっと大きくなると」


 ジルが挨拶した。「お久しぶりです」

「ジリアン! 君のは私の未来視を超えているな。筋肉だな」

「違いますよ! 普通ですって。確かめてください!」

「いや、遠慮しとく」


 それから、ジョセフィーヌはマリウスに歩み寄った。

 視線が、首から腰まですとんと流れたが、胸については言及しなかった。

 黙って、マリウスの肩に手を置く。

「艦隊司令になったな。昇進おめでとう」

「ありがとうございます」


 ジョセフィーヌ、背中まである銀髪を指で梳った。

「お互い、髪の手入れが面倒だな」

「邪魔だけど、手入れは面倒ではないです」

「そうなのか? 洗うのとか乾かすのとか、手間がかかるだろう?」

「マルガリータがやってくれるから」

「・・・お前、マルガリータを大事にしろよ」


 そこで、笑顔を消して、真顔になった。

「さて。で、これは何だ?」

 とタカフミを指差した。

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