第7-6話:コロニー③:暗転

「ザッカウ、聞こえるか」

 エアロックを抜けて船内に入ると、アユーシはMIを呼んだ。

 2秒ほどの沈黙。

「こんにちは。アユーシ、シュリア」

 待機状態からの反応は遅れるものだが、いつもより少し、長かった。

「昔、乗っていた、ガウリカの映像はある?」

 また沈黙。これは、データを検索しているだけだ。

 質問される理由や、回答が引き起こす結果を、心配している訳ではない。 

 アユーシの見立てでは、ザッカウはそこまで賢くない。


「あります」

 ザッカウが回答。

「あるのか!」

「えー、そんな機能があったの!?」

 アユーシが、ちょっと不安そうに眉をひそめる。どこまで撮られているんだ??

「投影できるか?」

「ホログラム投影機がありません。2次元画像なら出せます」

「じゃあ、ブリッジの端末で見ましょう」

 アユーシは、シュリアを連れて、ブリッジへ。


 通信士席のディスプレイ。

 ガウリカが、ブリッジ内で誰かと話している映像が出た。

「お母さん・・・」

 席の間を漂い、一人一人に声をかけている。

 ガウリカが、おどけた身振りで何か話し、周囲の人間が大笑いした。

 ガウリカも笑っている。自信に満ち溢れている。

 付帯情報を見ると、第5惑星の調査に向かう際の、映像だった。


「母は、冷遇されていたのか?」

 唐突にシュリアが聞いた。

「冷遇? なんで?」

「こんな遠くの星に、調査に送られるなんて。当主の妹なのに」

「母が望んだのよ。クロード領に戻ってから。

 もうテロンには行きたくないって。それに、

 当主の親族で、女だからって、遊んで暮らせる訳ではないのよ」


「母のお墓は、どこにあるんだい」

「第5惑星の衛星。母が亡くなった基地の傍」

 シュリアは画像から目を離して、アユーシを見た。

「本当に、母の死は、事故だったのか?」


 画面が切り替わり、ガウリカは男性と会話していた。

 アユーシは、微かにこの顔に見覚えがあった。ガウリカの兄、ダハムの父。

 当時のクロード家当主、アンシュだ。

 2人は何か、調査計画のことを話しているようだ。

 ガウリカが、身振り手振りを交えて、アグレッシブに何かを訴えている。

 それを、アンシュが、微笑や苦笑を浮かべながら聞いている、という感じだ。

 仲は良さそうに見える。


「もしかして、遺体を調べられたくなかったんじゃないか」

「考え過ぎよ。お墓を作るのも、母が望んだの」

「あんな寂しい場所に、独りぼっちで?」

「クロードでは、お墓は作らないから」

「じゃあ、どうしているんだ? 宇宙葬とか?」

 アユーシは、ため息を吐いた。

「リサイクルされるのよ。母は、それを嫌がったの」


          **


 2人が動画を見つめていると、ブリッジ内に人が入って来た。

 何と、テロン宇宙軍だ。一人二人ではない。次々と入ってくる。

「何事ですか!」

 アユーシの問いには答えず、周囲を取り囲む。


 軍人たちをかき分けて、現れたのは、アニクだった。

 アニクは、ディスプレイに映る、ガウリカの画像を見つめた。


「アニク様! これはどういうことですか」

「第5惑星まで行きたいのだ。お前の母ガウリカが眠る場所へ」

「母の? 母のことをどうして気にされるのですか?」

 アニクは無言でペンダントを差し出した。男女が描かれていた。

 一人は母だ。もう一人の男性は・・・これは、もしかして若い頃のアニクなのか?


 その時、首筋に微かな痛みを感じた。

 驚いて振り向くと、軍人の一人が、注射器のようなものを手にしていた。

 視界の端で、意識のない警備兵が運び込まれるのを、見たような気がする。

 

 視界が暗転した。

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