第7-5話:コロニー②:警備を突破

 ザッカウ-1は、コロニーの輪の中心、発着ポートに停泊していた。

 エアロック(修理済)と、発着ポートの与圧エリアは、搭乗橋で接続されている。

 搭乗橋の前には、警備兵が1人、立哨していた。

 脇に、小さな詰所があり、数名が内部で漂っている。


「ちょっと用があるの。通して」

 兵士に声をかけ、横を通り過ぎようとしたが、

「おい、ちょっと待ってくれ、アユーシ」

 詰所から、警備隊長が出てきて、アユーシを呼び止めた。


 アユーシは当主ダハムの従妹で、ザッカウ-1の乗組員も務めている。

 彼女一人なら、一礼して通過させただろう。

 だが今は、余計な奴がついている。


 テロン宇宙軍の軍人は、全員、貴族や裕福な家庭の子弟。

 クロードの貧しさを見下す気持ちが、言葉や態度の端々に現れて、警備隊長は不愉快に思っていた。


 テロン宇宙軍の中で、この若い士官だけは、割とまともで、礼儀正しい。

 だが、部隊交流の際、アユーシとやけに親しく接していた。

 普段は言葉数も少なく、あまり感情を見せないアユーシが、笑顔を見せて対応していた。

 それも、気に食わなかい。

 胡散臭そうにシュリアを見つめる。


 警備隊長の視線に気づくと、アユーシは声をひそめて言った。

「ちょっと、大丈夫よ。あのね、この人は、私の兄なの」

「兄!?」

 アユーシは、ガウリカ様とテロン人との間に生まれた子、と聞いた。

 ということは、もう一人、いたのか。

 当主の親族か。邪険には出来ないなぁ。


「ただで、とは言わないよ」

 シュリアが、バックパックから何かを取り出した。食べ物を入れる容器だ。

 透明な蓋で中が見える。大きな、角煮のようなものが入っている。

「肉だ」

 そう言って警備隊長に渡した。

「うぉ!?」


 執政官アニクが訪問し、大規模な祝宴が開催されたが、本日当直の警備兵たちは、参加できなかった。

 なんて運が悪いんだ、と皆で嘆いていたところだった。

「こっちは揚げ物や炒め物。こっちは甘いやつだ」

 更に2箱を、重ねていく。浮き上がる箱を、隊長は慌てて押さえる。

「あと、これだ」

 ガラスのボトルを渡した。


「ちょっと、今は警備中よ」

「飲む時間は、君たちの良識に任せるよ」

「あ、ああ、ありがとう。でも・・・」

 両手に料理と酒を持って、それでも逡巡する隊長に、シュリアは微笑んだ。

「そうだな。心優しい隊長が、みんなに分けたら、隊長の分がないね」

 そっと、もう1本、琥珀色の液体が入った、小さな瓶を渡した。

 これで決まった。


「いいか、アユーシ、何かあったらすぐに呼ぶんだぞ!」

「はい」

 2人が搭乗橋に入ると、「うおー、これ本物の肉だ!」という声が、背後から聞こえた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る