第2-4話:出戻り
「うちの隊員に何か用かい?」
緑のジャケットを着た、艦隊派の士官が、問いかけてきた。
肌は透き通るような白さ。赤い血管が透けて見える。
キリっと目鼻立ちの整った美貌、深海のように濃い青い目。
だが何より存在感を示すのは、銀色の「戒めの長髪」だった。
ほとんどの「星の人」は、髪を伸ばさない。
兵士として、長い髪は邪魔でしかない。規則でも短髪が規定されている。
士官は、兵と区別するために髪を伸ばすが、一部だけ(一房だけ)を、肩にかかる程度まで伸ばすのが一般的である。
それなのに、彼女がここまで髪を伸ばす理由は、ただ一つしかない。
行動を制約する、物理的な「戒め」として、長髪を指定されている。
つまり、「ヤバい人」なのだ。
**
「ソティスを放してくれ。君、名前は?」
「ブリオです」
ブリオが手を離したので、銀髪の士官は表情を和らげた。
「さてソティス。ブリオに襟首を掴まれたのはなぜだ?」
ソティスは一瞬、逡巡してから、
「こんなところに猿が、と言ったからです」と答えた。
「それは適切な発言ではないね。謝りたまえ」
ソティスは嫌そうな顔をする。士官は黙って彼女を見つめる。
ソティスは、ブリオ、ギリク、ハーキフを見てから、頭を下げた。
「失礼な物言いをして、申し訳ない」
だが、ソティスの苛立ちは収まらなかった。余計な一言を付け加えた。
「言葉が通じるとは思わなくて」
それってどういうことだ? とブリオとギリクは考え込む。
帝国語を話しているんだから、通じないはずはないだろ?
2人の脳みそが、(2人にとっては)高度な思考を重ねる。
数秒考えて、ようやく、再び猿扱いされたことに気づいた。
ブリオとギリクの顔が、怒りで赤く染まる。
だが、2人が動き出す前に、士官がソティスの後頭部を思い切り叩いた。
「痛っ!」
「そんな謝り方があるか!」
士官は、ソティスの頭をぐりぐり押して、深々とお辞儀させる。
「どおもスミマセンにどとしません」
ソティス、棒読みで謝罪。
艦隊派の士官が体罰を食らわせるのをみて、ブリオもギリクも面食らう。
それでもまだ、完全には怒りが収まらなかったのだが。
その時、スチールが進み出て、士官に挨拶した。
「お久しぶりです、先輩」
「先輩?」
「え、じゃあ、スチールと同じ育成旅団の人ですか?」
スチールとジルは、赤ん坊の頃から、同じ育成旅団で育っている。
ということは、この士官は、ジル隊長の先輩でもある、ということだ。
ブリオとギリクは、これ以上、このヤバそうな人と関わる気が失せた。
**
マルガリータは、シャトルバスで街に向かっていた。
地面から浮いているシャトルバスは、石畳の道を、揺れることなく進んでいく。
橋のところで、機動歩兵たちを追い抜いた。
振り返ると、機動歩兵と、駆逐艦キスリングの艦隊派が、もめ始めた。
“あら、ちょっと、喧嘩なんて起こさないでよ!”
とマルガリータは心配する。
そこに、橋のアーチを登ってきた士官が目に入った。艦隊派の緑の軍服姿。
マルガリータは驚いた。風に銀髪がなびいている。
“情報軍から「出戻った」と聞きましたが、なんですかあの長髪は!”
そもそも「戒めの長髪」は、気性の荒い機動歩兵に課されることが多い。
例えば、マリウスのように。
情報軍で「戒め」を科されるなんて、何が起こったのか、想像もできない。
左手のパネルを操作すると、ジョセフィーヌにメッセージを送った。
「お久しぶりです! 私は『黒曜石』に行きます。先輩も、いかがですか?」
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