第8-7話:追跡②ー車とバケツ

 アニクたちを乗せた車列が、丘の上の城を目指して進む。

 しかし、車列の前方で、上空のエスリリスから砲撃が行われた。

 眩い光が、黒い艦体から森に向けて走る。

 音はないが、黒煙が上がる。路面が破壊されたとみるべきだろう。

 更に、機動歩兵が数名、前方に降下するのが見えた。


「ここで停めろ」

 アニク、停車を指示。

 車道の脇の空き地に、農機具を入れるような、質素な小屋がある。


 古来からドゥルガー家の城の立つこの丘には、いくつもの間道が掘られている。

 小屋の中から、その一本が、城へと続いていた。


 車は、このまま移動を続けるように指示。

 アニクは、わずかな供と妻子を連れて、間道に姿を消した。


          **


 バケツをかっ飛ばしていると、ユジンは3台の車を前方に認めた。


「はいそこの3台。左に寄せて停まりなさい」

 拡声器で呼びかける。

 すると、3台のうち、前と後の車が横2列に並び、車線をふさぐ。

 中央の車が逃げ去った。


「させるか~」

 バケツが、横に並ぶ2台に急接近する。

 もう少しで衝突、というところで、


 急に高度を上げると、2台を飛び越えて、追い越した。


 追い越してから高度を下げようとすると、2台から発砲してきた。

「うゎっ! 上昇上昇!」

 底以外は銃弾が貫通してしまうので、再び高度を上げる。

 更に加速して、2台を引き離す。


「あの車に標的が乗ってるな!」

 前方の木々が燃えていた。エスリリスの砲撃で火災が発生したのだ。

 路面に大穴が空いており、車は停止。

 すると、車体がぐっと下がった。タイヤがパンク。内部で悲鳴が上がる。

 機動歩兵が1人、歩み寄る。ガラスを歩兵銃の銃床で割り、内部に告げる。

「重力を戻す。両手を後ろ頭に当てて、1人ずつ出ろ」


 ユジンはバケツを停めると、連絡。

「標的が乗っていると思われる車を、機動歩兵が確保しました」

 スチールが応答した。

「相手は身分の高い人物だ。礼儀正しく扱っているか?」

「えーと、今、車から引き出して、足蹴にしてます」

「お前たちが確認してくれ」


 ユジン、車から引き出され、地面に座らされた人たちの人相を確認。

「あれ? アニクさんがいない」

 車内の座席にも、トランクにもいない。


「標的、いません! 後ろの2台かも。確認に戻ります」

 ユジンともう一人の歩兵、機動歩兵2名でバケツに乗り、引き返す。

 2台は停車していた。誰も乗っていない。

「標的、失探しったん! 見失いました~!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る