第11-6話:どちらに行かれるんですか!?

 アユーシは、駆逐艦キスリングに乗せてもらい、クロード領に戻って来た。


 ブリッジのディスプレイに投影されたコロニーを見て、息を呑む。

 2か所あった発電プラントが、影も形もない。

 回転速度も遅い。おそらく、大規模な空気漏れで減速し、それを回復できずにいるのだろう。

 ジョセフィーヌに頼んで、発着ポートに降ろしてもらった。


 発着ポート内の電話は、まだ動いていた。

 電話の向こうで、喚く声が続き、ダハムが駆けつけてきた。


「アユーシなのかっ、無事か?

 シュリアがお前の服を着ていたから、どうなったかと心配していたぞ」

「心配かけてすみません。

 それに、ザッカウ-1のことも、コロニーも・・・」

 アユーシ、言葉に詰まる。


 だが、勇気を出して聞く。

「コロニーの状況は?」

「電力喪失で危険な状況だ。あと3日で、酸素が尽きる」


 このままでは全滅してしまう。

 クロード家の一員として、こうした緊急事態に何が行われるのか、アユーシも理解していた。


「私、帝国の艦隊司令に助けを求めます。

 『箱舟』は、待ってください!」

 床を蹴ると、聖墓を目指して、通路を漂っていく。

(発着ポートは回転していないので、遠心力による重力がない)


          **


 アユーシが発着ポートの内部を移動していると、

 身体を打ち抜かれるような衝撃があった。

 余韻が、さざ波のように、発着ポートを通り過ぎる。


 通路の向こうから光が射し、その光を背負って、何かが近づいてくる。

 その姿を認めた時、アユーシは思わず叫びそうになって、口に手を当てた。


 ウルカ様が、女神像が、動いている!

 戦装束を身にまとい、髪を靡かせて、こちらに来る!

 ――アユーシの目には、そんな風に見えたのだった。


「ウルカ様!」

 すがるように、声をあげる。

 ウルカ(に見えたもの)は、首を巡らせて、アユーシの方を向いた。

 確かに、アユーシを見た。


 だが、その表情には何の変化もなく、言葉もなく。

 また正面を向くと、

 そのまま、すーっ、と行ってしまった。


“えええっっ!?”

 アユーシは慌てた。


 ウルカ様なら、きっと微笑んでくださるはず。

 もしご迷惑だったとしても、戸惑いの表情なり、あるいはお叱りの言葉なりを、かけてくださるものと思っていたのに。

 何の反応も無いなんて!?


「ウルカ様!

 どちらに行かれるんですか!?

 ちょっと待ってください、ウルカ様~!!」


          **


 一方のマリウス。

「いや、私はウルカじゃないし」

 ここで返事をしたら、自分はウルカですよと詐称するようなものだ。


 かと言って、無視するのも悪いな、という、戸惑いは感じていたのだが。

 感情を表情に反映させる身体機能が無いので、そのまま、外見上は無反応のまま、通過してしまったのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る