第11-5話:濫用の哀しみ

 タカフミとマルガリータは、聖墓の扉の前に移動。


 マルガリータの左手のパネルに、いくつかのアイコンが表示された。

「よし、君に決めた!」

 と言って、そのうちの一つに触れると、扉が開いた。


 タカフミが愕然としていると、

「ふっふっふ。

 先ほど、外部からの通信で、扉が解錠されたのです。

 その通信を傍受して、解析したんですよ」

 タカフミに聞かれる前に、胸を反らして、自慢した。


 そして聖墓の中で目にしたのは、

 マリウスと同じ顔の兵士たちが、連なって眠る光景だった。


          **


「これは・・・クローンですか?」

「そう。正確には『戦闘用クローン』です。

 戦闘用に調整され、不要な部分を削除された人たち」


「帝国では、常識なんですか?」

「いいえ。ほとんどの市民は、クローンの存在自体を知らないの」

「でも、マルガリータは知っている」

「私は情報軍だから」

 そう言って、誇らしげに、自分を指さした。


「帝国の歴史の大部分は、失われました。

 故意に、破棄されたのです。

 散逸した史実を収集するのも、

『帝国の英知の真髄』である、我々情報軍の仕事なんです!」


 マルガリータは、聖墓に並ぶケースを見回した。

「かくいう私も、初めて見ました。

 同じ顔が、並んでいる光景・・・・・・・を。

 クローンは、ごく僅かしかいないから。今は」


 初めて、マリウスと「同じ顔」に会った時の衝撃は、忘れられない。

 マリウスの黒髪が伸びて、「ヤバさ」が近づいている・・・・・・のも、気がかりだ。


「司令は知っていたんですか」

「本人にも、周囲にも、クローンであることは、知らされません。

 あの子は、地球駅の建設に来る直前に、会ったんです。もう一人、に」

「なぜ伝えないんです?」

濫用らんようを防ぐため。

 そのために、クローンの存在自体が、隠匿されているの」


 マルガリータは、足元のケースに、屈みこんだ。

 少年のような、幼さの残る顔を見つめる。


「濫用とは?」

 一緒にケースを覗き込みながら、タカフミは尋ねた。

「昔は・・・戦闘行為は全て、クローンが担当していたんです」

「なぜそんなことに!?」


 マルガリータは、胸の前で両手を組み、目を伏せた。

 外見上は、天使が、悲しみに心を痛めているように見える。


「それはね、帝国市民のほとんどは、

 私と同じように、

 勤勉で、無欲で、勇気はあるけど、ちょっとトロい。

 そういう人たちばかりだったからです。

 だから、危ないことは全部、クローンに任せてしまったの」


「・・・形容詞がどれも一致しないんですが?」

「まあ!」

 マルガリータはおほほと笑った。

「目と耳が劣化しているのかしら。それともその間にある物が?

 交換しますか?」

「・・・結構です」



「交換と言えば」

 また真顔に戻る。


「うちの国は、医療技術が、すごく進んでいます」

「そうですね。恐ろしいくらいに」

「なぜだと思います?」

「・・・まさか、クローンを!?」


 今度は心底、悲痛な表情で、マルガリータは頷いた。

「戦場を生き延びても、別の『用途』に回されたのです」



「戦争や、銀河の探索、外交といった、外回りの危険な仕事を、全部クローンに押し付けて、準備や救助も不完全。更に、実験にまで・・・

 こうした濫用を二度と繰り返さないために、存在自体が非公開になったのです」

「それはひどい・・・」


 タカフミは思わず顔をしかめ、それからハッと気づいた。

「ちょっと待ってください。外交も?」

「そうですよ。

 だって、知らない人のところに行くのは、危ないじゃないですか」

「それって、地球やテロンとの交渉に、最初から司令が出張るようなものですよね?」

「まあ、そうですね」

 それで大丈夫だったのか? とタカフミは疑問に思った。



 マルガリータは、幼さの残る、少年のような兵士のケースに触れた。

「『均質軍団』・・・クローンだけで構成された部隊は、こう呼ばれていました。

 千年ほど前に、廃止になりました。

 ・・・国を亡ぼすから、という理由で。


 でもそれは、使う側の論理です。

 使われた・・・濫用された人たちには、別の想いがあるかもしれません」


          **


 使う側の論理。。。

 濫用された人たちの、哀しみ――



 ――だが、それだけではなく、


「クローンたちにとんでもない目に遭わされた、

 銀河の大勢の人たちが被った大迷惑」

 があったことを、この時のタカフミは、知る由もなかったのである!


          **


「マリウスを追いかけましょう。

 ちゃんと責任もって、暴走を止めてくださいね!

『虐殺カウンター』作りますから!」

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