第10-4話:アニクとタカフミ

 アニクとタカフミは、得物を手に向き合った。

 身長は、190㎝あるタカフミが、やや高い。


 アニクは苦笑しながら、剣をタカフミに示した。

「まさかこの聖剣で、決闘することになるとは、思わなかった」

 真顔になり、姿勢を正す。

「レヤンシュの息子、カビーアの息子、アニクだ」

 タカフミも真っすぐ立つ。

「恒文館道場、小脇剛史」

 礼はなく、2人は剣とモップを構えた。


 アニクの剣は、ドゥルガー家の始祖が、女神から与えられた、と伝わる剣。

 地球であればロングソードと呼ばれるもの。両刃で直刀。長さは約90㎝。

 厚みがあり頑丈そう。重さは1kg程度あるだろう。斬るだけでなく、硬いものに打撃を与えるのが目的のようだ。

 象嵌による、華麗な装飾がなされている。


 タカフミが手にするのは、モップの柄。当然ながら刃はない。金属製だが、この軽さだと素材はアルミ、しかも中身は空洞だ。


 真剣に対して、防具もなく対面する。非常に怖い。

 一方のアニクは、機動歩兵に見つかる前に、偽女神を捕らえたいので、急ぐ必要がある。


「行くぞ!」

 アニクは、剣を持つ有利を頼み、一気に間合いを詰めてきた。剣を突き出す。

 タカフミは、中段の構えのまま、後退。


 アニク、剣を横に薙ぐように振り回した。

 ロングソードを安易に受けては、モップの柄ではもちそうにない。

 タカフミの後退を弱気とみて、アニクは強気に出た。剣を振り上げる。


 その瞬間。

 タカフミは恐怖をこらえ、腰から体重を乗せるように前進すると、片手突きをはなった。

 思いがけないリーチの長さに、アニクは慌てて身を捩るが、モップの先が首を掠める。

 身を守るように、聖剣を前に出す。


 タカフミはすかさず、アニクの懐に体を寄せ、

 突き出された手元に打ち込んだ。

 小手打ちが決まり、アニクが「ぐぁぁ」とうめき声を上げる。

 聖剣が床に落ちて、乾いた音を立てた。


 アニクは、打たれた手首を掴み、呻きながら、タカフミを見上げた。

 タカフミは距離を取り、モップを構えてアニクを見つめる。残心。

 両者の動きが止まった。


 そこへ。

「なぜだ。タカフミ、なぜトドメを刺さない?」

“だったら、私にらせろ”と言わんばかりの勢いで、マリウスの声が響いた。

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