第10-3話:戦闘人形

 タカフミが、声のする方に移動した後、通路の反対側で足音が響く。

 アニクと共に、偽の女神を探していた軍人2人が、駆け込んできた。

 それぞれ小銃を抱えている。


 2人は、目の前に、女神ウルカを象った人形を見つけて、ぎょっとする。

 何も身に着けていない状態で、放置されていたからだ。


 美しい顔と、豊かな黒髪の下に、少年のようにすらりとした肢体。

 偽の女神で騙すだけでも、非道の行いなのに、

 その人形を、あろうことか裸で放置する行為に、憤りを感じた。


「あれを持って帰るぞ」

「どうするんだ?」

「知れたことよ! 異星人どのも嘘を暴くんだ」


          **


 マリウスは、視界の端で2人を捉えた。

 小銃で武装している。


 マリウスは、射手の動きを読んで、発砲の瞬間に銃撃を回避できる。

 だが、二手に分かれて攻撃されると、さすがに厄介だ。

 つまり、容赦なく迅速に対応すべき事態である。そう判断すると、

 予備動作なしに、いきなり2人に向けて駆け出した。


          **


 人形と思っていた偽女神が、突然、走り出したので、2人は驚いて足を止めた。

 裸の女性、それも女神の顔をしたものを撃つのには、抵抗がある。

 左の軍人が、銃口を下げ、マリウスの足に向けて発砲。

 撃った時には既に、マリウスは射線上にいない。そのまま男の懐に飛び込み、腕を突き出す。

 悲鳴を上げて、男が両手で顔を覆った。小銃が落ちる。


“左目はかわされたか”

 心の中で呟きながら、体は早くも、もう一人に肉薄。鳩尾を殴り上げた。

 マリウスの膂力は普通なので、破壊するほどではない。

 それでも男は体を2つに折るようにして呻く。

 男の右腕を掴むと、肘を逆に曲げて関節を砕く。こちらの小銃も床に落ちた。


 この軍人は、悲鳴をあげるようなことはしなかった。そのまま体を低くして、突っ込んできた。体格差を活かして、押し倒すつもりだ。

 突撃をかわし、器用に片足で小銃を立てて掴むと、振り返った男の頭に叩きつける。

 たまらず膝をついた男の頭に、無表情で第2、第3の打撃を加えた。

 骨が砕かれる音。横たわる男は、電流を流された蛙のように痙攣していた。


「この、このやろう!」

 2人組の片割れが、右目から血を流しながら小銃を構えた。構わずにマリウスは駆け寄る。銃撃されるが、平然と至近距離で回避すると、右のこめかみに銃床を叩きつけた。倒れた男の股間を蹴り上げる。男は悶絶もんぜつした。


 軍人たちを倒すと、マルガリータが用意した着替えに歩み寄る。

 ワイヤーを取り出して、2人を縛り上げた。

 周囲を見渡す。


“もう終わりか。物足りないなぁ”

 すると、通路の先から、タカフミとアニクの声が聞こえた。

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