第10-2話:迎撃

 テロン宇宙軍が、神託の月の居住区に入ると、重力があった。地表と同じ1G。

 無重力だと不便、と思った「星の人」が、人工重力発生装置を設置していたのだ。


 彼らが着用している宇宙服は、船外活動用である。息をするだけでなく、体温を保持したり、紫外線・宇宙線・微小な宇宙塵から体を守るものだ。

 重さは120㎏もある。重力下では、とても動けない。


 やむなく、宇宙服を脱ぐことにしたが、脱着も1人ではできない。

 わたわたしながら、まずアニク、それから2名を宇宙服から出したところで、機動歩兵がなだれ込んできた。


 機動歩兵の「鎧」には動力補助があるので、普通に動いたり、走り回れる。

 更に、重力制御を駆使して、数名が大ジャンプ。テロン宇宙軍の周囲に展開した。


 テロン宇宙軍は小銃で反撃するが、重い宇宙服が邪魔して、動くことはおろか、屈んだり這いつくばることも出来ない。


 ジルは早々に、鎮圧ではなく、拘束する作戦に切り替えた。

 粘着弾や網、ワイヤーで、瞬く間に軍人たちの動きを封じ、武装解除した。


「17名います。3名、姿が見えません」

「探すぞ」

 腕輪でタカフミを呼ぶ。

「念のため、マリウスの傍にいてくれ」「分かった」


          **


 マリウスは、マルガリータに手伝ってもらって、着替えているはず。

 着替え場所に行くと、マリウスが1人で突っ立っていた。


 マネキンかと思った。人形化している。


 微動だにしない。前方を見ている。タカフミが入っても視線は動かない。

 足元に土の山。その傍らにモップがあった。


「なんで裸なんです!?」

 顔だけ動かして、タカフミを見た。

「土が付いている」


 その時、男の声がした。

「マリウス、どこだ! 出てこい!」

「アニクだ。乗り込んできたのか。

 引き留めますから、その間に服を着てください!」


 タカフミ、通路に出ていく。鎧は装着していない。武器もない。

 心許ないので、モップを持って行くことにした。


          **


 通路の先は、体育館くらいの広さのホールになっており、アニクの声はそちらから聞こえた。

 タカフミがホールを覗き込むと、駆けてくるアニクが見えた。

 右手に剣を握っている。

「タカフミか。その先にマリウスがいるのか」

「お待ちください、アニクどの」


「そこをどけ。マリウスに会わせろ」

「しばらく。しばらくお待ちください」

「勝手なものだ。では、偽の女神はどこだ。どこにいる」

 タカフミは無言。両方の手の平を突き出して、アニクを押しとどめる。

「偽物もそこか。そこをどけ」

「どきません」


「ならば、斬るしかあるまい」

 剣を突き出した。ドゥルガー家の家宝、女神に託された、聖剣だった。

 タカフミも、モップを握る。

「無理に通ろうとされるなら、自分は戦います」

「そのモップでか?」


 タカフミは、カッター(レーザー刃)で、モップヘッドを切り落とす。

 モップの柄を、120cmほど(約3尺9寸)の長さに切り詰める。

 金属の柄を持って、アニクの前に立ち塞がった。

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