第8-14話:停戦交渉②

「それは! 我々を滅ぼすということか!?」

 アニクは声を荒らげて問い質した。


「そうではない。

 小惑星は、次第に惑星テロンに引き寄せられ、百数十年後に、地上に落ちる。


 だが。

 テロンが、略奪を行わなければ、

 今から100年後に、帝国は小惑星を、安全な場所に移動させる」


「その言葉を信じろと」

「私たちは最初、あなた方の略奪停止の言葉を信じ、そして裏切られた。

 次はあなた方が、私たちの言葉を信じる番だ。

 その上で」


 マリウスはいったん、言葉を切った。


「なぜ略奪を再開したのか、理由を聞こう」


          **


「神託の儀式、を行うためだ」

 アニクは、説明を続ける。

「これは、女神ウルカが、我々テロン貴族に、地上の統治を委ねられた儀式だ。

 『新しい月』の出現で、テロンの政治体制は、酷く動揺している。

 神託の儀式を、再度、執り行うことで、この動揺を抑える必要がある!」


「それでなぜ、輸送コンテナの略奪を?」

「『神託の月』を再起動させるためだ。

 再起動には、膨大なエネルギーが要る」


「再起動?」

「『神託の月』は、遥か昔、我らの祖先をこの惑星に届けた、播種船なのだ」

「!」マルガリータが、息を呑んだ。

 マリウスの表情は、変わらない。


「超電導バッテリーが欲しかったのか。

 略奪の理由は分かった。


 だが、政権の維持は、惑星テロンの内政問題だな。

 私たちは、テロンの内政には干渉しない」

「しかし、この動揺は、帝国が『新しい月』を打ち上げたのが原因だ!」


 そもそもテロン政府が「もう盗りません」と素直に言わなかったのが、原因なのだが。

 マリウスは、この辺りが落としどころと判断した。


「分かった。では、その儀式に協力しよう。

 超電導バッテリーを提供する。

 ただし、播種船の再起動や、その後の運用は、私たちが行う」


「儀式の内容が、極めて重要だ。

 式典の様子は、惑星全体に広く開示したい」

「詳細はマルガリータと調整してくれ。

 ただし、もうドゥルガー領には、マルガリータを降ろさない。

 もう一つの執政家、ファントゥ家を通じて、調整する」

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