第8-13話:停戦交渉①

 セネカが腕輪を操作し、マリウスとの通話を開こうとする。

 だが、ビデオ通話の画面が乱れている。ほとんど識別できない。

「あれ? 電波悪いですね? もしかして妨害入っている?」

「ならば画像はいい。音声だけで良い」


「只今入りました!」

 マルガリータが通話に加わった。こちらは画像つきだ。

 ブラックアウトした画面と、マルガリータの顔、2つの空中ディスプレイが、アニクの前に浮かぶ。

「こちらにいるのは、執政官のアニクどの。

 同席は、アニクどのの従僕、テロン宇宙軍のシュリア、メイドのチャリタ。

 そしてセネカとタカフミ、です」


          **


「初めまして。私は艦隊司令のマリウスだ」

「執政官のアニクだ。顔が見えないのが残念ですな」

「私の顔を出しても、意味がない」

「ほお。それはなぜ?」

「表情が無いから」

 アニク、無言。表情が無いとは? マリウスの意図が分からなかった。

 この件は追求しないと決める。


「このような状況で、最初の会話を行うのは、非常に残念なことだ」

 とアニク。

 マルガリータは「全くだ」という感じで、残念そうな顔で頷く。


 黒い画面の向こうで、マリウスは右頬を撫でた。

「アニク。私は思うんだ。

 言葉とは、虚しいものだと」

 アニクが怪訝な顔をする。

 マルガリータは焦る。今から交渉なのに、何を言い出すんだこの子は?


「だから、私は決めた。小惑星を動かす」

「それは我々に対して、何か新しい代償を求めるということか?」


「違う。これは決定事項だ。

 テロンが何を約束しようと、関係ない。


 小惑星を、ラグランジュ点から動かす。


 『新しい月』は、テロンに落ちるだろう」


 参加者全員(マリウス以外)が、驚愕した。

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