第7-11話:地球③―どうやって見分けるの?

 隊員たちは、堂島を左右から抱えるようにして、食堂に連れていった。

 長椅子のあるテーブル席を選ぶと、堂島を座らせ、両脇と前に着席。

 一人が、厨房機械のオーダーパネルに向かい、何かをオーダーする。


 堂島は、タカフミの股間で揺れていたものを思い出し、思わず赤面。

 赤面した自分が恥ずかしくなると、今度は怒りが込み上げてきた。

“おぞましいものを見せつけやがって!”

 仮に、マリウスに生えていたとしても、意匠的に大差はないはず。

 だが堂島の主観世界では、「誰に生えているか」で、雲泥の差があるらしい。


 それから、初めて見た「本物」が、マリウスではなかったことが悲しくなり、今度は涙を流してしまう。

 赤くなったり、怒ったり、泣き出したり。はたから見て、精神不安定以外の何物でもなかった。


「ドウジマ、元気出して」

 隣に座った隊員が、背中をそっと叩いて、元気づけてくれた。

 名前はユジン。地球駅の建設で、一緒だった人だ。

 休憩中、堂島と一緒に、ドラマやアニメを見たので、割と日本語が話せる。

 テーブルの周りにも、トンネル掘削を手伝ってくれた歩兵たちが、集まってきた。


 隊員が、大きな鍋のようなものを持ってきた。

 ひさしが飛び出ているので、ヘルメットのように見えるが、大きい。

 直径50㎝くらいある。巨人用か? という大きさ。

 どん、と堂島の前に置かれた。

 中身は巨大なカスタードプリンだった。

「元気を出すには、甘いものが一番だよ」


 カラメルと一緒に食べたいのだが、底にあるのか?

 だとすると、20センチは掘り下げないと、たどり着けない。

 あっけにとられる堂島に、ユジンがスプーンを渡した。

 デザートスプーンではない。カレーライスとかを食べるサイズだ。

「これで・・・掘り進めと?」


「これもかけるといいよ」

 別の隊員が、弾薬ケースのような金属缶を差し出した。

 中にたっぷり、カラメルが入っていた。


 堂島は、プリンを食べて、少し心が落ち着いた。

 思い切って質問する。

「気になっていることがあるので、教えてください!

 マリウス様は、男ですか!?」

 すると隊員たちは、顔を見合わせた。

「男かどうかって、どうやって見分けるの?」

「そこからか!」


「まあ、一般的には、胸があるかどうか、かな」

「それはない」「ないね」

 口々に否定される。だが、それは決定打とはならない。


「はっきり言えば、下半身にぶら下がっているかどうかです!」

 みんな、困ったような顔をした。

「普段、気にしてないからなぁ」

「ドウジマは、お風呂で他の人の股間を凝視しているの?」

「いやいやいや、そんなこと、してません!」

 人のことを、変態のように言わないで欲しい。


「うーん、変わったとこは無いと思うんだけど」

「正直言うと、良く見えないんだよね、髪に隠れてて」

 その時、堂島に天啓がひらめいた。

 なぜ、軍団長はマリウス様の髪を伸ばしたのか。不思議に思っていたのだが。

 体を隠すためだったのか!


 あの長髪は、一種の遮蔽板か!

 これなら、風呂や身体計測で裸に剥かれても、隠すことが出来る!

 軍団長とやらは、恐ろしく頭の良い、切れ者にちがいない。


 堂島は感動に震えた。バラバラになっていたパズルが組み合わさって、1枚の絵が完成した! そんな気持ちだった。

 堂島の場合、妄想のせいで、破片の1つ1つが歪んでいるのだが。

 歪んだままで、1つの絵が完成してしまったことが、宇宙の奇跡と言えた。


 頭を使ったら、糖分補給が必要だ! 猛然とプリンを食べる。

「ドウジマ、それ、皆で分けるものなんだけど」

 隊員が声をかける。堂島が周囲を見ると、皿とスプーンを持った隊員が10名ばかり、待っていた。

「ご、ごめん。半分くらい食べちゃった」

「いいよ。うちは食べ放題だけど、残すと叱られるから。

 でもドウジマって凄いね。地球の人はみんなそんなに大食いなの?」

「大食いなんてそんな。私は背も低いし、食欲とかは平均以下だよ」

 大ウソをついた。


          **


 皆でプリンを分け合い、食べる。

 トンネル掘削の思い出や、地球のアニメやドラマの話で、盛り上がった。


 堂島は、一瞬だが、体が揺れたような気がした。

 それから、ピポン、という音が、艦内放送で流れた。

 「星の人」の電子音は、いつも優しい。

 だが今回は、ピポンピポンピポンピポンと、速いテンポの連打が続いた。

 隊員たちの顔に、さっと緊張が走る。


「総員、ただちに航行姿勢!」

 録音っぽい音声が告げる。

 続いて、これは明らかに人間が話している声で、

「本艦は現在、第5戦速にある。

 5分後に第1戦速に移行する。今すぐシートに着け!」


 隊員が走る靴音が、食堂や通路にこだました。

「え!? 何が起こったの? どうしたらいいの?」

「分からない。ドウジマ、とりあえず一緒に来て!」

 ユジンに引っ張られ、歩兵待機所に向けて、駆けて行く。

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