第1-5話:鎧

 探索艦隊の3隻は、駅付近に停泊。

 上陸休暇は、停泊の翌朝、第一直時(0800)から開始することになった。

 エスリリスの通路では、今日から休暇を取る隊員たちが、賑やかに会話しながら、ポッドの格納庫に向かっている。


 その流れに逆行する形で、タカフミは司令室に向かった。

 司令室隣の、マリウスの個室から、マリウスとマルガリータが出てくる。

 マルガリータは、片手に持ったブラシを振った。

「じゃー、私はポッドで行きますね」

「ああ」

 マリウスはタカフミを見ると、

「ちょうどいいな。行こう」と言って通路の奥を指す。


          **


 ポッドとは別の格納庫に、機動歩兵の面々が集合していた。

「お、タカフミも一緒に行くのか?」

 とジルが声をかけてきた。

「見せてやろうと思って」

 マリウスが答え、近くにいた隊員に、

「ハーキフ、予備の・・・」

 と言いかけて、止めた。


「ジル、兵に言って、予備の『鎧』を用意させてくれ」

「ああ? 分かったよ。えーと」

 ぐるりと見渡す。

「やっぱりお前だな。ハーキフ。俺の予備を持ってきてくれ」

「了解です!」

 ハーキフが、格納庫の奥の方へ駆けて行った。


          **


「これが『鎧』ですか・・・」

 タカフミは、ハーキフが持ってきた「鎧」に、そっと触れてみた。

 一見すると、灰色の人型ロボット、に見える。

 ジルより、頭一つ分、背が高い。だいたい同じ大きさだ。


「こいつは宇宙服の一種だ。ロボットじゃない。

 機動歩兵が、普段と同じように素早く動ける、ってのが売りだ」

 ジルが、鎧の関節部分を叩く。

「動作を補助するサーボモータが付いている。

 このおかげで、標準的な宇宙服と違って、動きが鈍重にならない。

 中の人間の動きに忠実に反応する」


 マリウスが、鎧の手首を掴む。

「正式には『動作補助付き宇宙服』と言うんだが、我々は『鎧』と呼んでいる。

 特別な武装はない。機動歩兵が普段使う武器を、そのまま使う。

 使いこなすには、かなりの習熟を必要とするが、駅まで飛んでいくくらいなら、タカフミでも大丈夫だろう」


 ハーキフに手伝ってもらい、タカフミは鎧を装着。

 装着というより、立っている鎧の中に入る感じだ。

「人工重力発生装置もついているが、それは触るなよ」

 ジルが念を押す。

「慣れないと危険だから、くれぐれも発動させるな」

「分かった」


 頭部が下ろされる。バイザー部分は透明だったが、下ろすと周囲が少し暗くなった。目を保護するための遮光が入ったのだ。

 外から見るとバイザーは真っ黒になり、顔は見えない。


「ジル、手伝ってくれ」

 マリウスが呼んだ。まだ鎧を装着できていない。

「頭部が下りないんだ」

 ジルが覗き込む。

「髪が邪魔しているな」

 無造作に、鎧の中に押し込む。今度は、頭部がセットされた。


「軍団長に言おう。髪が邪魔で鎧を着られない。任務に支障がある」

「やめとけって。司令は鎧を着て前線に出ないだろ。

 もっと長くされたら、どうすんだ」

「・・・」


 スチールが、全員の鎧を確認。それから格納庫の扉が開く。

 全長100㎞のレールを格納した、駅の長辺部分が、星々を背景に横たわっている。

「よし、行け!」

 伍長のブリオの合図で、機動歩兵が1人ずつ、駅に向かって飛び出していく。

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