第2章:隣駅/出会いと再会
第2-1話:駅の風景
駅の格納庫に到着すると、機動歩兵は鎧を外し、倉庫に格納。
それから格納庫の人工重力を発生させて、整列した。
全員、灰色のシャツとタクティカルパンツ姿。
前後2列に並んだ隊員たちの前に、ジルが立った。
「お前らが、猿なみの脳みそしか持ってないのは、よく分かっている」
全員、無言で隊長の言葉に耳を傾けている。
「だから、これだけは覚えて、厳守しろ。
上陸休暇中、絶対に、
『吐くな、壊すな、泣かすな』
これを破った奴は、休暇中、戦闘糧食しか食わせん。肉も酒もなしだ。
分かったか?」
「はい!」
力強い返事が見事に揃う。
ジルは、一人一人の顔を、順にじっと見つめた。
それから、にやっと笑った。
「以上だ。解散!」
隊員たちは気をつけ姿勢を解き、同僚と話したり、小突きあった。
スチールがジルに歩み寄る。
「この後は、どちらへ?」
「クルプへ行こうと思う」
クルプというのは、士官が集まる、ちょっと高級な食堂である。
別に、贅沢をしようという訳ではない。
艦内の生活では、食事も入浴も、士官と兵は一緒だ。
せめて休暇中くらいは、なるべく士官の目を気にせずに過ごせるように、という配慮だった。
そしてスチールに顔を寄せると、肩に手を置き、少し低い声で言った。
「スチール、君もゆっくり休んでくれ。いつも助かっている」
スチールは微かに笑った。
「ありがとう、ジリアン。じゃあ、また」
隊員たちを追って、駆けて行った。
**
「うぉー、青空だ!」
格納庫を出て、ハーキフが歓声を上げる。
ハーキフは2年前、「地球駅」の建設が始まる時に配属されてきた。
まだ顔に幼さが残るが、背は高く、がっちりした体つきをしている。ほんのり明るめの茶髪。
青い空に、白い雲が流れていく。風が強いらしく、動きが速い。
ここはH型構造体の、短辺部分にあたる。
空や雲は映像だが、本当に惑星上にいるかのようだ。時おり吹く風も爽やかだ。
足元には、石畳の道が続いている。車道は少しでこぼこしているが、両側の歩道は完璧に平らな表面で、歩きやすい。
歩道の脇には、等間隔で街路樹が植えられていた。
ハーキフが木に腕を伸ばす。すると、空中ディスプレイと同じような、滑らかな表面の触感があった。押しても映像は動かない。さらに力を込めると、木の中に手が入った。この画像は座標固定のようだ。
「お前、ちゃんとした駅は初めてだな?」
ブリオ伍長がハーキフに声をかける。
「いいか気をつけろ。本物の木も混じっているんだ。
映像だと思って飛び込むと、怪我をするぞ」
ちょっと得意そうに教えてやる。
「はい!」
ブリオは初めて駅に上陸した時、木に飛び込んで鼻血を出した。
もちろん、そんな余計なことは、教えてやらない。
「ところで、なんで、本物の木が混じっているんですか?」
「そりゃお前、匂いとかさ。あと、そうそう、葉っぱも落ちてくるんだ」
ちょうど、風に飛ばされて、大きな葉がひらひらと舞い降りてきた。
植物には、何の関心も持っていない二人だったが、2年ぶりに見た「自然」の姿に、思わず目が釘付けになる。
「そういや、お前も地球には何度か降下しただろ」
「はい。でも、『星の人拠点』は、伐採されていたし、最後は船の上だったし」
「自然に触れる機会って、なかったよな」
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