第8-11話:追跡⑥ー欠損の代償

 タカフミは白旗を上げて、1人でアニクの館に歩み寄った。

「シュリアと話がしたい」と呼びかける。


 館内の士官たちは、額を集めて相談する。

「どうする? 要件を聞いて取り次ぐか?」

「表向きは、シュリア様はただの宇宙軍士官だ。

 取り次ぐなんて、変じゃないか?」

「むしろ、いないことにするか」


 館からの返答は「そんな奴はここにはいない!」だった。


「おかしい。確かに見たんだが」

「ドローンの画像を見てみましょう」

 ギリク、館内の映像を再生する。

「いた! この人がシュリアだ」

 士官や兵士に囲まれていた。何かを指示するような素振りも見えた。


「もう一度、飛ばします」

 ドローンが館の中を飛び回り、画像を送って来る。

「今は見当たらないですね」


 タカフミ、腕輪でステファンに連絡を取る。

「アニクの館から、出て行った車はある?」

「最初の3台だけだ。その後は出ていない」

 何か、抜け道があり、それで脱出したようだ。


 捜索する時間はない。シュリアを追うことは断念し、アニクを追うことにする。

「車列だが、途中で停車していないか?」

「録画を分析させる」

 数分後。

「一度だけ、止まっている。座標を送るよ」

 館の先で、ユジンからバケツを借りて、停車位置に向かう。


 停車位置に着くと、ギリクとセネカのドローン2台で、周囲を捜索。

 タカフミは、農夫の小屋のようなものを見つけた。

 城周辺にこうした小屋があるのは、違和感があった。


 中を覗くと、鍬や鋤のような農作業の道具が置かれていた。

 農夫の小屋なら、他にも肥料や、支柱や、畝を被うシートといった物で、雑然としていそうだが、やけにすっきりしている。


 タカフミは、セネカを呼んだ。

「ここに間道があるかもしれない。何か、調べる方法はないか?」

「ああ、それなら任せてください」

 セネカは、スパナのような工具を取り出した。


“特殊なセンサーとか、付いているのか?”

 そう思って見守るタカフミの前で、セネカは壁や床をスパナで叩きまくった。

「あ! この裏、空洞になってます!」

 ただのスパナだった。


          **


 間道は、地面を掘って、木の柱で補強しただけの、簡素なものだった。

 大昔に作られたものらしい。


 ライトで照らすと、所々に、長い脚をたくさん持った生き物がいた。

 タカフミも堂島も、自衛隊で野外訓練を受けているので、こういった生き物に、多少は慣れている。

 ギリクは平然としていた。


 だが、セネカは、こうした生き物は苦手だった。

 育成時代に野営の経験はあるが、その後はずっと宇宙での勤務。

 海賊は怖くないがゲジゲジは怖い。


 ギリクが急に振り返ると、脚が10センチもあるような大型を、セネカのバイザーに乗せた。

「ぎゃー」

 セネカの顔が引きつっている。


「ちょっとアンタ! やめろ」

 堂島は、ゲジゲジを払いのけてやると、ギリクに怒鳴った。

 ギリクは、「へへっ」と冷笑すると、前進を再開。

「なんだあいつ。性格悪いな」


          **


 間道の突き当りに、扉があった。ギリクは立ち止まった。

「さっさと行こう!」

 堂島がギリクの脇を通り過ぎて、扉に駆け寄ろうとする。

「馬鹿っ。不用心に近づくな!」

 ギリクが、堂島を抱えるように止めた。

 その足元が、爆発した。土ぼこりが舞い、視界が塞がれる。


「ギリク、大丈夫か!」

 タカフミは、土ぼこりをかき分けるようにして進み、倒れたギリクに近寄る。

 ギリクの右足の先が、鎧ごと吹き飛んでいた。


「ああ! ギリク、ギリク、私、なんてことを!」

 堂島、ギリクにすがりつき、泣きながら謝る。

「ごめん、ちょっとどいて」

 セネカ、傷口にスプレーを噴射。泡が固まり、出血を止める。

「鎮静剤を打つぞ」

「いや、いい。意識を失いたくない。お前たちは先に行け」


 ギリクは、堂島を呼んだ。

「そんな顔をするな。足だからな。しばらく休暇だ」

「休暇?」

「この足だと走れないからな。さすがに治るまで、任務と訓練は休んでいいんだ」

「でも、でも、吹き飛んでるよ?」

「代わりが来るまでだ。

 戦闘中の負傷は、新しいのを培養して、また付けてくれるんだよ」


 タカフミは驚愕した。「星の人」は、身体の欠損を恐れないのか!

 そういえばマリウスも「右目が取れてしまった」とか言っていた。目も治るのか。

 こんな人たちを相手に戦えないな、と思った。


「それより、堂島、お願いがあるんだ」

 ギリクは、痛みと出血で青ざめた顔を、堂島に向けた。

「何? 私に出来ることなら何でもするよ!」

「俺にも・・・□★ΠΦを観せてくれないか」


 確か□★ΠΦは、男同士の「友情」を描いた作品。

 タカフミはよく知らないので、はっきりしないが・・・

「ギリクもそういうの好きだったの?」

「いや、なんていうかさ」

 青ざめた顔が、心持ち、赤く染まる。

「詰所でユジンたちが騒いでいるのを見て、俺もちょっと観たくなったんだ」

「分かった、任せて。地球の文化を伝えられて嬉しいよ」

「病院で、他の負傷兵にも、布教してやるぜ」

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